みじかい

□渇望
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そもそも僕には、なにかを欲するという感情があまりないように思う。
闇に関する力については、別だが。
あれが欲しい、これが欲しい、そういった類の感情を感じたことがないのだ。

だが、そんな僕が初めてなにかを渇望するという経験をした。
その対象は、女だった。

下衆な同級生達が、やれレンブンクローの誰それが可愛いとか、スリザリンの何とかが綺麗だとか、ヤりたい云々言ってはいたが。
僕は全く興味がなかった。
しかし僕のこの類稀なる容姿と頭脳のおかげで、女の方から言い寄ってくる。
だからセックスの経験は、同い年の男子に比べれば多い方だとは思う。
だがしかし、繰り返しになるが僕自身は彼女らになんの興味も関心もないのだ。
ただ人間として備わっている性欲を、事務的に発散しているだけ。



その女子は、いつも目立たないよう努力でもしているのかと思うくらいに目立たなかった。
常に教室の隅にいるし、友達の一人もいないらしい。
どこへ行くにもなにをするにも、一人だった。
そんな彼女を見て僕は勘づいた。いじめられているんだろう、と。
いや、いじめと言ったら語弊があろうか。
とにかく、女子から疎まれているのは確からしい。
僕なりに推理すると、要するに彼女の容姿だ。みんなそれが気に食わないのだ。
小柄な体に、垂れ目がちな瞳。小さな唇。甘い顔立ち。
なんとはなしに男の庇護欲をくすぐり、放ってはおけないタイプだ。
そうして、同性、つまり女子から嫌われるタイプなのだ。
しかしそのような容姿をしていても、逆に女子から好かれる人間だっているだろう。
要はうまく立ち回れるか否か、それが明暗を分けるのだ。

つまり彼女は負け組、だろうか?

成績は中の上、特に交際している男子もなし。
意識して目立たぬよう生活しているかのような人間だ。
目立たない。目立たない筈なのに、なぜか目に留まる。そして、嫌われる、或いは好まれる。
全く損な人生を送っているようだ。
そんな彼女の存在に気付いたときから、僕は自分の中で今まで感じ得なかった類の感情が成長するのを感じていた。
かわいそうな彼女を、僕が、僕が、捕らえてしまいたい。
僕は彼女を、欲していた。



引っ掛けられた足、転ぶ彼女、散乱する勉強道具。
一人で立ち上がろうとする彼女にそっと手を差し出して、驚いて僕を見上げる彼女に優しく微笑んで。


「こんにちは、大丈夫?手伝おうか、ミス・ヴェルチ」


――こんにちは、僕のもの。









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