みじかい

□朝食そっちのけ
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僕には可愛い先輩がいる。
綺麗な髪を風に遊ばせて廊下を歩くアリア先輩。
大人しそうな、可憐な容貌の下に、どんな狡猾さを隠しているのだろう。
ああ、気になる。

「先輩」
「あ、レギュラス!おはよう」

まるで今たまたま見つけましたよといった声で先輩を呼ぶと、いつも通り柔らかい笑みを向けてくれた。
か、可愛い…!
その笑顔だけで僕はもうノックアウト寸前だ。
目の前で美しく弧を描く唇に口付けたいのを必死に我慢して、先輩に出来る限りの爽やかな笑顔を向ける。

「今から朝食ですか?」
「うん、そうだよ!レギュラスも?」
「ええ。ご一緒しても?」
「もちろん!」

こうしてまんまと先輩の隣を確保する僕。
先輩の友人の僕に向ける眼差し、ほら、僕って素敵な後輩でしょう?にっこり微笑んで、先輩の周りからも攻めていく。
僕よりずっと下で揺れるふわふわな髪。
耳の後ろがぴょこんと跳ねている、寝癖だろうか?
寝癖に気付かない先輩が堪らなく可愛くて、一人こっそりと笑う。

「先輩、ここ跳ねてますよ」

そっと手で押さえて教えてあげれば、え、うそだあ!と声をあげて先輩が恥ずかしそうに髪を撫で付ける。
小さな声でありがと、と呟くのが聞こえた。
友人の前で指摘するのはデリカシーに欠けるだろうか?
でも少し、意地悪がしたかったんだ。

「今日は糖蜜パイとフルーツヨーグルトがあるといいなあ」

にこにこしながらそう言うアリア先輩。
ああ、あなたが望むならなんだって、僕はすぐさま用意してあげたい!

「レギュラス、隣でご飯食べる?」
「先輩がよろしいのなら」
「よろしいに決まってるよう」

僕は俗な欲望をひた隠しにして紳士の仮面を被ったまま先輩と会話する。
さあさあ名も知らぬ先輩のご友人よ、「レギュラスくんてかっこいいのね」と先輩に耳打ちしてください!
そうしてアリア先輩が僕を改めて男として認識する、それからやんわり頬を赤らめて…
いけない、涎が垂れそうだ。朝食があまりにおいしそうだったからだって言い訳できるかな。
隣の席にちょこんと座る先輩を横目でちらちら見てもバレる心配はないだろう、先輩はベリーパイやチョコレートタルトに夢中だ。

「このパイ美味しいー!」

友人とにこにこ会話を交わしながら、先輩はその小さな口でデザートを食べる。
苺のような赤い唇に食まれる、甘いベリーパイが羨ましい。
僕もパイやタルトになりたい。先輩に食べられたい。

「先輩、デザートだけでなくバランスよく食事を摂らないと…」

そう言いながら彩りよくパンやサラダなどを皿に取り分ける。
瑞々しい野菜を見て先輩はぷくりと頬を膨らませた。
先輩は生野菜が嫌いだ。
ちょっと先輩そんな表情反則ですよ!と心中で叫びながら顔は平然を装って先輩の前に皿を置いた。
いや、そもそも先輩の存在自体反則だよな、と思い直す。

「…これ、苦いよレギュラスー…」
「苦くても食べないと。体調を崩しますよ」
「うぅ…」

先輩は苦々しい顔で野菜を食べる。
そんな表情も可愛いなあ…
そう思いつつ見ていると、ふと先輩が動きを止めた。
こくん、と野菜を嚥下して僕の方を向く。

「レギュラスはほんとに、わたしのこと考えてくれてるんだね!」
「え…」
「ありがとう!」

花の綻ぶような、とはまさにこのことだろう。
アリア先輩はにっこり、それはそれは美しく可愛らしい笑顔を僕に向けた。

「…いえ、アリア先輩のためです。これくらいなんてことありませんよ」

澄ました顔で答える僕。
心中はとんでもないことになっていた。
先輩の笑顔!満面の笑み!ありがとう、の言葉!
ああもう僕ってなんて幸せ者なんだろう。先輩ってなんて可愛いんだろう。
先輩、好きだ大好きだ愛してる――!
爆発せんばかりの感情を、口の中のチキン(もはやなんの味もしない)と飲み込んで。
相変わらず平静を装い、僕はナプキンで先輩の口元を拭う。

「先輩、ジャムがついてます」
「うぁ、ありがとレギュラス!」








(朝食なんかより)
(もうあなたを食べてしまいたい!)












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