みじかい

□321で
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「僕、お前のことが、好きなんだ」

アリアの目の前で、ドラコは顔を真っ赤にしつつそう言った。
なに言ってんのかしらこの金髪お坊っちゃん――
それがアリアの、まず最初の感想である。
そしてそれを、アリアはそのまま声に出した。

「なに言ってんの、あんた」
「…だ、から、僕は」
「ああ違う言い直せって言ってるんじゃない」

アリアは少し苛々して頭を振った。
自分の意思が的確に相手に伝わらないということがアリアは嫌いだった。

「だからさ、わたしは、なにをとち狂ってわたしに愛の告白なんてしてるんだって言ってるの」

愛の告白、という言葉にドラコはまた頬をぽっと赤く染めた。
その様子にも、アリアは苛々した。

「とち狂ってなんかいない。僕は本当にお前が好きだ」
「…とち狂ってんじゃん」

アリアはあからさまに溜め息をつく。

「ねえ、あんたとわたしは言わば敵通しだったじゃない。顔を合わせば口喧嘩する、そういう関係だったじゃない」
「まあ、そうだな」
「そんなあんたがなんでわたしのことなんか好きになる訳?あ、もしかして罰ゲームとか悪戯の類?通りでいつものお付きがいない訳ね、どっかでこの様子見てるんでしょ――」

アリアは一息にそう言って辺りをきょろきょろ見回す。
あの角に、ドラコの金魚の糞の巨体が見えやしないか、いやあっちかと探っている。
一方ドラコは自分の気持ちが伝わらないことに、アリアと違い苛立ちでなく悲しみを覚えて声を荒らげた。

「違う!」
「…なにが違うってのよ、」
「全部違うんだ…アリア」

もしかしなくても、初めてアリアに向かってアリアの名前を呼んだドラコは、それだけでまた頬が熱くなるのを感じた。
対してアリアはまたその柳眉をひそめ、ドラコを睨み付ける。

「僕は、―僕も、なんでお前が好きなのか分からない」
「っはあ!?」
「でも、好きなんだ。朝も昼も夜もお前のことを考えて、頭がぼうっとして。廊下で出会せば胸が痛くなる。そしてまたお前で頭がいっぱいになるんだ」
「………気でも狂ったんじゃ」
「そうじゃないって言ってるだろ!僕は本当に本当にお前が好きなんだ。お前にも僕を好きになって欲しいとか、名前を呼んで欲しいとか、ポッターたちじゃなくて僕の隣にいて欲しいとか、そう考えてしまうくらいに」

ドラコはいよいよ顔を真っ赤にしながら、それでもアリアに想いを伝えた。
その言葉一つ一つ、アリアはいやだいやだと思いつつ全てを聞き取ってしまった。

「…そんなのおかしいわ。あんなにいがみ合ってたわたしたちが恋仲になるなんてあり得ない、あり得ないあり得ないわ…!」

ドラコから目線を外し、アリアは床に吐き捨てた。
しかしその頬が、ほんの少し、ほんの少しだけ赤くなっているのをドラコは確かに目撃したのだ。
そしてアリアは思案と己への詰問の最後に、ドラコの目の奥へと呟いた。

「あんたって馬鹿なのね、…ドラコ」

わたしも大概馬鹿だったみたいだけど。
その言葉を耳にする前にドラコはアリアを抱き締めていた。
アリアの抗議を流しつつ、ドラコは緩む頬を抑えきれずに、笑っていた。




321で
きみを好きになる





(大好き、大好きだアリアっ!)
(う、うるっさいわよ馬鹿!あとここが廊下だって、あんた知ってる訳!?)








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