みじかい

□大人のなりかた
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小さな手。綺麗な光を宿す瞳。柔らかそうな唇。
先輩先輩と、ちょこちょこひよこみたいに後ろをついてくる可愛い後輩。
アリアという名前の、三つ下の後輩。
余り年下の人間と関わることのなかった僕は、後輩とうまく接することができない。自分でも分かってる。
でもアリアだけは僕のなにを気に入ったのか、ひどく懐いた。

「レギュラス先輩!これ、教えてくれませんか」

そう言って開いた教科書を差し出すアリア。
アリアは変身術が苦手だ。
三年前自分も習ったなあと懐かしく思いながら教えてやる。
真剣な顔で僕の説明を聞くアリアは素直に可愛かった。
簡単な説明だったが理解したようなので、少し問題を出して解いてみるように指示する。

「分かりますか?」
「う…、はい!こういうこと、ですか?」

変身を成す簡単なメカニズムの説明。
僕の出した問題を、アリアは難なくとは言えないがきちんと解いてみせた。
よくできました、と頭を撫でると猫のように目を細める。

「これで試験、及第点もらえますかねー?」
「大丈夫だと思いますよ、アリアなら」

頑張ります!と意気込むアリアに、他の人間に対しては感じない類いの感情を感じる。
僕はアリアが好きだった。
アリアは純血で、ブラック家ほどではないにしろ古くから続く貴族の血を汲む家の出だ。
素直で可愛いし、僕によく懐いている。
全てを鑑みて、僕はアリアを愛している。
無垢な笑顔を見せるアリアにじわりじわり、黒く邪な感情が湧き出ることは事実。
僕はあまり他人に執着しない人間だったのだけれど。
さて、どう手に入れようか。
算段を立てる。



***



試験も終わったとある休日、談話室で読書をしていた僕にアリアが声をかける。

「レギュラス先輩、あの…」

珍しく歯切れの悪い様子に首を傾げる。
読んでいた本を閉じて、どうしたんですかと尋ねるとアリアはほんのり頬を染めた。

「先輩、お暇かなあと…で、でも読書中でしたよね!ごめんなさい、なんでもないんです、」
「いいですよ、本はまたあとででも読めますから」
「あ…あの…先輩は、ホグズミートには…?」
「ああ、行きませんよ。人混みが嫌いなので」

そう言えば今日はホグズミートへ行ける日だった。
どうりで談話室も人はまばらで、下級生しかいないわけだ。
僕はあまりああいう場所を好まないので殆ど行くことはないが。

「そう、なんですか…」
「アリアは行かないんですか?いつも友達と行っていたでしょう」
「わた、わたしはあの、…先輩と一緒に…いたくて」

顔を真っ赤にしてアリアは俯いた。
ああ、と思った。
この少女はいつもこうやって、可愛らしいことをする。
そうして僕の出方を待っているのではないかと勘繰ってしまうくらいだ。
だがアリアはそんなことをするような女の子ではない。
幼く無邪気で、健全だ。
きっと僕のことも先輩以上の存在としては見ていないんだろう。

「…そうですか」
「ご、ごめんなさい!我が儘言って」
「いえ、構いませんよ。なにか話したいことでも?」

ぽんぽんとソファの隣を叩き座るように促すとアリアは僕の隣でおずおずと僕を見上げた。
そして、なんでもいいから話したかったのだと告げる。
その言葉に微笑んで、じゃあアリアの話、なんでも聞きますよ、そう言うとアリアは目を輝かせた。
友達との愉快な話、最近の授業で分からないこと、美味しかったお菓子の感想、アリアは色々と話す。
それらに相槌を打ちながら僕はアリアの表情や声、全てを堪能した。
にこにこ笑うアリアからは狡猾さの欠片も見て取れないが、なぜ彼女はスリザリンに選ばれたのだろう。
疑問に思うがまあいい、彼女の組分けでスリザリンと叫んだ組分け帽子に感謝した。

「…それでですね、レギュラス先輩」
「なんです?」
「友達がこの間、変なこと言ったんです」
「変なこと?」
「わたしとうとう大人になったの、って。それを聞いてた周りの友達は良かったわねって言ってたんですけどわたし、意味が分からなくて…その子同い年だし、誕生日もまだなんですよ?どういうことって聞いてもみんな教えてくれなくて」

どういう意味なんでしょう?
小首を傾げるアリアは純粋そのもの。
低俗な話題に花を咲かす年頃ということだろう、彼女たちの学年も。
しかし一人幼いアリアがひどく可愛らしく見える。
思わず吊り上がる口の端を隠しもせず、アリアに問う。

「アリアは、大人になりたいんですか?」
「え?…いや、なりたいというか…でも友達が言ってたこと理解したくて…うーん」
「…教えてあげましょうか?どういうこと、か」

そう言う僕にアリアはいつもの綺麗な瞳を向ける。
なんでも教えてくれる、優しい先輩。
僕のことをそう思っているのがよく分かる目だった。

「えっと、はい!教えてくれますか?」
「もちろん。ただ…ここではちょっと」

僕の部屋へ行きましょう。
その言葉にアリアはまた首を傾げたが、素直に頷いた。
今日は好都合だ、ルームメイトはみなホグズミートへ行っている。
無人の部屋へ案内するとアリアはきょろきょろ周りを見回した。

「男子寮、初めて入りました」
「そうですか。別段変わらないでしょう?」
「はい、全然おんなじです」

ベッドに腰掛けるよう言うと、僕も隣に腰を下ろす。
じゃあ、と僕は口を開く。

「教えてあげますね。大人の、なり方」
「はい、…あ、あの?」

するりと頬を撫でる僕の手に、アリアは不思議そうな声を上げる。
次の言葉を紡ぐ前に唇を奪ってしまえば、アリアが大きく目を見開くのが見えた。

「ん、ぅ…っ!?」

顔を離そうとするのを後頭部に回した手で防いで、更に深くアリアの唇や口内を味わう。
アリアはぎゅうと目を瞑って、腕を突っ張ってなんとか僕から逃れようとしていた。
そんなの僕が許すはずないのに。
最後に唇を舐めて一旦離れるとアリアは僕に話しかけたときよりも顔を赤くして、呆けたように僕を見上げていた。
初めてだといいな、キス。
アリアの初めては全て、僕がいい。

「せ、せんぱ、なにを、」
「これくらいでへばってたら、大人にはなれませんよ」
「大人、って…」

アリアはわけが分からないという顔をしている。
その表情を見下ろすのはなかなかに愉快だった。
そんな僕の様子がおかしいことにようやく気付いたアリアは慌てて立ち上がり逃げようとする。
その手を掴まえてどこへ行くんですかと聞いた。
拍子抜けするくらい、細くて弱々しい腕だった。

「だ…って、レギュラス先輩、なんだか変です…」
「変?僕がですか?」
「い、いきなりキス、するなんて…っ」

キスという単語を発しただけでアリアはまた赤くなった。
初々しいことこの上ない、が、逃げるなんて面白くない。
立ち上がってそのままアリアを床に押し倒す。
せっかくベッドでやってあげようと思っていたのにな。
でも、アリアが悪いんですよ?

「アリア、教えてあげるって言ったでしょう?大人になるって、つまりはこういうことなんですよ」

アリアの表情は恐怖で凍り付いていた。
こんな顔、見たことなかった。
いつも可愛らしい笑顔や、真剣な顔、仄かに赤く染めた顔しか見ていなかった。
そういう顔も可愛いけど、こっちもいいなあ。僕は心で密やかに、舌舐めずり。
アリアの白い肌によく似合う銀と緑のネクタイを解く。
細い腕がなんとか僕を止めようと頑張っているが、そんな抵抗なんの意味もなかった。

「いや、先輩、いやです!やめてください、先輩っ!」

アリアはもう泣いていた。
ぐずぐず泣きながら、それでも必死に僕に抵抗していた。
泣き顔も好きだけど笑顔の方が好きだな、そう思って流れる涙を舐め取る。
アリアの喉がひくりと鳴った。

「や、やだ…先輩、もういいですから、大人になんかなりたくない、だからもうやめて…」
「アリアがよくたって僕はよくないんです。やめてなんか、あげませんから」

アリアの瞳が絶望を映して、アリアは口を噤む。
最後の抵抗か緩くいやいやをする幼子のような姿が堪らなくそそった。
まだ抵抗するようならネクタイで腕を縛り上げてやるつもりだったがもうそのそぶりは見せないのでやめることにした。
縛ったりしたら、きっとアリアの腕も痛むだろうから。

「怖がることはない。僕が大人にしてあげる」
「……っ、う、」
「好きですよ、アリア」

アリアも僕を好きになってくれたらいいのに。
いや、時間をかけてでもそうしてやろう。
アリアの全てを手に入れたい。
この綺麗な瞳も唇も白い肌も小さな手も、思考も愛も何もかも。
僕のものにしてやりたい。
ブラウスのボタンを外して、スカートを捲り上げて。
現れた肌は更に白かった。
傷一つない無垢で柔らかい肌。
まだ子供に近い曲線。
掌で触れて確かめる。まだ大人になるには早いだろう、幼い肢体。
それを無理矢理そうするのが堪らなくいいのだ。
気紛れに胸元にでも吸い付けばアリアはびくりと跳ねた。

「いた…っ」
「痛かったですか?ごめんなさい」

白に映える美しい赤い痕を撫でながら謝るとアリアは複雑な表情で僕を見た。
懐いていた先輩だからこそ、信用していいものか、抵抗すべきか決めきれないのだろう。
可愛いアリア。馬鹿なアリア。
全力で、僕を拒絶すべきなのに。
そうすれば或いは諦めてあげられるかも知れないのに。
今優しくすれば落ちるだろうと、アリアの大好きな先輩はそんなことを考えているのだ。

「アリアのお友達はみんな、こういうことをしたんですよ」
「え、や、ひゃあっ!?」

細い脚を付け根まで撫で上げて、首筋には歯を立てて。
アリアの肌は柔らかくてなんだか甘い匂いがした。
フリルで飾られた可愛らしいデザインの下着をパチンと外す。
フロントホックって便利だなあ。前に兄さんも言ってたっけ。
脳裏にふと忌々しい兄の顔が浮かんだが、蔑んでいたあの人と同じことをしている自分に笑ってしまう。
まだ胸元は子供らしく薄くて、微かに女性らしさの兆しを見せる柔らかい胸をふにふに揉んでいるとアリアがまたぐずぐず泣き出した。

「せ、先輩、こわいです」
「…怖いことなんてありませんよ。大丈夫です、優しくしますから」
「う、…こわい」

また一つ涙を零してアリアが呟く。
アリアの体は柔らかいけれど、全体的に薄っぺらかった。
女を抱いたことがないわけじゃない。もちろん兄さんには劣るだろうが。
彼女らのような熟れた柔らかさではなくて、やっぱりまだ子供の柔らかさ。
浮き出た腰骨を撫でるとアリアは僕のシャツを強く握り締めた。
でもこんなにいとおしい。
いいんだ、アリアは僕の手で僕の好きなように育てれば。

「アリア、大人にすると、僕は言いましたが」
「、…?」
「今すぐにはできないんですよ。時間がかかるんです。ちゃんと責任を持って大人にしてあげますから、アリア、僕の傍にいてくださいね?」

潤んだ双眸は相変わらず迷いに揺れていた。
無言は肯定。
僕はそう受け取って、満悦、唇を歪ませる。

「最初は少し痛いかも知れませんが、すぐに楽になります」
「…先輩、」
「ああ、それと、僕のことはこれから名前だけで呼ぶこと。いいですね?」

また無言。
でも暫くして小さくレギュラス、と名前を呼んだアリアは笑ってはいなかったけれど、そのうちまたあの花のような笑顔が見られるだろう。
今はただ、恐怖と快感に支配されていればいい。
少しずつ、少しずつ、それを愛へと変換させるだけ。

「愛していますよ、アリア」

いつかきみからも同じ言葉が聞ける未来を、瞼の裏に夢見ながら。
僕は、自らの欲を吐き出し続ける。






(手取り足取り教えてあげる)
(ゆっくりとろり、育ててあげる)

((早急にして歪な、大人のなりかた。))









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