みじかい

□幸せを望まぬ生き物
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リーマスは月に一度ふらりとどこかへいなくなる。
そうして次の日の朝、傷だらけで帰ってくる。
それはリーマスが人狼だから。
告げられる前から、薄々感付いてはいたけれど。
わたしにできることは清潔な包帯やガーゼと彼の好きな甘いチョコレートを用意して、不安なんて欠片も感じられない優しい笑顔で彼を迎えることだけ。

「リーマス、おかえり」
「アリア…寝てていいって言ったのに」

ふらふらと覚束ない足取りで談話室に入ってきたリーマス。
後ろからジェームズとシリウス、それからピーターが入ってきた。
三人とも所々傷ができていて疲れているようだった。
でも一番傷付いて、疲れているのはリーマス。

「おかえりみんな。手当てするよ」
「ああ…あー、僕たちはいいよ。な」
「お、おう、そうだな。あんまり傷もついてないし」
「そう?大丈夫なの?ピーターも」
「あ、ぼ、僕………えっと、大丈夫だよアリア」
「僕たちはもう寝るよ。アリアはリーマスを診てあげて」
「じゃ、おやすみアリア」
「うん、おやすみなさい」

そう言って三人は寮へ帰っていった。
大丈夫だと本人たちが言うのだから大丈夫なのだろう。
そんなことよりリーマスだ。

「リーマス、早く傷を見せてちょうだい?」
「…うん」
「ああ、痛そう…沁みたらごめんね」

ぽたり、薬品を垂らして、ガーゼを当てて、包帯を巻く。
この動作にもだいぶ慣れた。
リーマスは本当に疲れているようで、微かに呻くだけ。
一際ひどい傷に薬品を垂らす。
血と薬品のにおいが混ざって漂う。
くらり、目眩がした。
リーマスの、血の、におい。

「ねえ、リーマス」
「…なんだい?」
「脱狼薬って、知ってる?」
「脱狼、薬…?」
「まだ開発段階だけどね。きっと近い将来普通に手に入るようになるわ。それを飲めば、こんなに傷だらけにもならなくて済む」

傷全てだって愛しいし、傷だらけで苦しむリーマスだって好きだけど。
でもやっぱり笑顔の方が好きだから。
脱狼薬、早く完璧に作られないかしらと言いながら、微かに薬品のにおいがする包帯を巻き続けた。

「脱狼薬が出来て、僕が狼の姿にならなくても済むようになったら…、そうしたらアリアは、僕と一緒にいてくれるかい?」
「脱狼薬が出来なくたって、そうするわ」

きっとリーマスのこの言葉は、疲れや厭世観から来る投げやりなしかしそれでも未来への僅かな希望。
そのうち覆るかも知れない。
でもわたしはなんの迷いもなく傍にいると答えて、リーマスを安心させてあげるの。
大丈夫、リーマスがその気でなくたって絶対離れない。
ううん、一生その気でい続けさせるわ。
絶対に、絶対に、離れてあげない――




((幸せなんか望まない。あなたさえいればいい))









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