みじかい

□ロマンスは降ってこない。
1ページ/1ページ

※この時代にDVDなんてないだろとか、そういうのは考えてはいけない。







さてさて、寒さ厳しいこのクリスマス休暇。
とある一世一代の計画を実現させるため、僕は決死の覚悟でアリアを家に誘い、意外や意外けろりと承諾されたので、緩む口元を必死で引き締めつつアリアを家に連れてきたのだが。
僕の部屋に二人きり、そんな僕の心臓にとんでもなく悪い状況の中、アリアがなにをしているのかと言うと。


「うぅ…っな、泣けるううう」

鼻をずびずび言わせながら、マグル製品の、変な…なんだっけ、えーと、なんとかでぃーというのを鑑賞中である。

「ジェシーとビリーが、ひっく、幸せになってよかった、よぉぉぉ」

おいおい泣くアリアが持ってきたこの…なんとかでぃー。
アリアは薄い円盤のようなそれを、なにやら不思議な機械に突っ込んでいた。
それからその機械と繋がっているらしい、て、てれび?には、美しい男女が映って、喋って動いていた。魔法界の写真とは違い、こちらには気付いていないようだ。
アリア曰くこれは『超感動的ラブストーリー』らしい。意味が分からない。
そしてなんとかでぃーとてれびとやらは、アリアが僕を無視して仲良くやっているポッターの金魚の糞であるウィーズリーに頼んで入手したものらしい。

「ああ、わざわざロンに手紙で頼んでお父さんに貸してもらった甲斐あったわ!マグルってやっぱり素晴らしい、こんな機械にこんなお話を作れるのだもの!あ、思い出したらまた泣けてきちゃう…ううう」

縁に百合の花の刺繍が施されたシルクのハンカチで涙を拭い続けるアリア。
誕生日に渡したプレゼント、使ってくれてるんだな。僕は嬉しくなった。
が、この大事なとき、大事なタイミングでアリアの関心を得体の知れないマグル製品に奪われている状況は変わらない。

「ね、ドラコもそう思うでしょっ?」
「え、あ……ああ」

いきなり僕を見てそう強く尋ねるアリアの瞳から溢れる涙と、ぐしゃぐしゃになった顔。
それを見て、それでも可愛いとか思ってしまって。
ついでに内容なんかこれっぽっちも覚えてないしマグルなんかが作ったものなんか嫌いなのに思わず頷いてしまった。
僕のばか。ほら見ろ、アリアが「やっぱりそうだよねー!」と再びマグル製品及びマグル共に気をとられてしまったじゃないか。
「全然そう思わない、マグル製品なんか使うな」とでも言えば良かったのに。
でも。

「ドラコはマグル嫌いだから、観てても楽しくないかもなんて思ってたけど…わたしと同じようにマグルが好きになってくれたんだね!ドラコを好きになって良かった」

なんて、まだ頬の涙も乾いてないのにもう春の花々のような笑顔を、アリアが僕に見せるから。僕だけに、見せるから。
マグルも少しは役に立つじゃないか、と思ってしまったりもするんだ。
なんの躊躇もなく告げられた愛にどう返せばいいのかまだ僕にはよく分からなくて、なにも言えないままもうなにも映っていないマグルの機械を眺めていた。
熱くなっていく頬や動揺を悟られたくなくて、アリアの方は向けないまま。
するとアリアの小さな手がそっと僕のそれを握る。

「わたしもさ」

ぽつり、アリアが呟く。

「ああいうロマンスを、体験してみたいな」

マグルの機械の、真っ黒なガラスのような面には僕と、アリアが映っている。
ガラスに映るアリアがまたふにゃりと笑って。
僕は繋いでいない方の手でポケットの上から中の小さな箱を握り締め、決意を固めた。
箱の中身の可憐な宝石を乗せた金属の輪が、アリアの薬指で美しく輝くところを瞼に思い浮かべながら、でもどんな宝石だってアリアには負けてしまうと改めて、思った。




ロマンスは降ってこない。

((自分から作らなきゃいけないんだ!))


(だから、)
(…だから?)
(………っ僕と結婚してください!)
(ふふふ、喜んで)







.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ