みじかい

□逆さまの愛
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「アリアのこと見てるとさあ、なんていうか…」

リドルくんがそこで不自然に言葉を切る。
わたしは図書室で借りた『猫でもできる!簡単な呪文全集〜お菓子作り編〜』をパラパラめくりつつ、顔も上げずに次を促した。

「なんていうか、なに?」
「…首でも絞めたくなってくるよ」

なんだ、期待して損した。
そこは普通、なにかもっとこう、甘い言葉を言うべきところではないのか。
わたしは仮にも恋人なのに。
しかしわたしは思い直す。リドルくんに、普通を期待しちゃいけないんだった、って。
だってリドルくんは普通じゃないんだから。

「…そうなの」
「うん。首を絞めるだけじゃなくて、殴って蹴って思う存分痛め付けたい」
「気持ち悪いなリドルくんは」
「そういう口が悪いところも好きだよ」

そう言ってリドルくんはわたしの頭を撫でた。
ちゃんと好きって言ってくれるのにな、愛情表現の方法を間違えてるよね。
やっぱりリドルくんは変なひと。

「ねえアリア、してもいい?」
「…なにを?」
「痛いこと」

リドルくんは柔らかくわたしのほっぺたにキスをした。
もう、そういうことだけでいいじゃない。なんでそこに痛いことが加わるの。
しかもそれが本人の純粋な気持ちらしいのが余計に腹が立つ。質が悪い。

「い、いやだよ…わたしまだ死にたくないし」
「僕がアリアを殺すわけないだろう?きみは爪の先まで純血だし、それに…」

話の途中で言葉を切るのって、リドルくんの癖なんだろうか。
そんな風に勿体ぶられたら、わたし、期待しちゃうよ。
リドルくんの隣、ふかふかのソファの上でわたしは本に集中しているふりをして身を固くした。

「それに僕、アリアのこと愛してるしさ」

じわじわと頬が熱くなる。
そういうことさらっと言っちゃうリドルくんて、もはやプレイボーイみたいだ。
誰にでも言うわけじゃ、ないだろうけどさ。
わたしがなにも言わないからか、リドルくんが不満そうな声を上げる。

「アリアは?」
「わ、たし?」
「アリアは僕のこと好きじゃないのかい?」
「…わたしも、好きだよ、リドルくんのこと。リドルくん頭おかしいし気持ち悪いけど」

しっかり悪口も付け加えたのに、リドルくんは嬉しそうに笑った。
その笑顔をこっそり横目で見て、やっぱり他人を傷付ける人には見えないのにな、と思う。

「ねえ、じゃあいいだろう?ちょっとだけ」

まるで違うことを連想してしまいそうな台詞だが、リドルくんが言いたいのはつまり「ちょっとだけ痛め付けさせて」ってことである。
リドルくんのちょっとはちょっとじゃない気がする。
命が危険だ。
そうは思って、いるのだけど。

「…そんなに痛くないなら、いいよ」

そう答えてしまうわたしってもしかしてMなのかな。
…ううん、リドルくんが好きなだけだ。そうだ、絶対。
言った途端リドルくんはわたしの肩を掴んでわたしの顔を自分の方に向けさせた。
読んでいた本が滑り落ちて床とぶつかる。
真正面から見たリドルくんの顔はすごくかっこよくて、でもちょっと、怖かった。

「っあ、痛っ…!」

すぐにリドルくんの左手がわたしの喉元を掴んで爪を立てる。
首筋に食い込んでいく爪。じわじわ痛みが巡る。
それをとっても楽しそうに見るリドルくん。ああ、異常者め。
足を動かすと落とした本が当たった。
わたしはこれを見て、リドルくんになにかお菓子でも作ってあげようかと思っていたのだ。
普通の愛って、そういうものでしょ。
リドルくんの愛は逆さま。相手を傷付ける愛なんて。
そしてそれを受け入れるわたしもまた逆さまなのかしら。
そんなことを考えていたらほら、視界もくるり、逆さまにされる――



((逆さまの愛))








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