WING
□リデリア編 卒業前夜 エルザ′s side
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試験が終わり、一週間が経とうとしていた。あの日の夜は少し食べ過ぎてしまったと思う。なんせ、メイシェンとリノが張り切っていたし、ユエ教官も手が込んでたからな。
俺は、自分の部屋に置いてあった木刀に手をかけた。今までの六年間で捨てる事無く使ったから、全体的にだが、特に刃にあたる部分がすり減っていた。入学祝いにクロト・ディルア隊長にもらった物だったから、大切に使っていた。
もう、これで打ち合うことは無いと思うけど、形をする時はまた使うと思う。
何故って、明日は卒業式だからな。
俺もアイツもメイシェンもリノも…みんな別々の道を歩く。そう、別々の道を…。
そう考えると、寂しさが心の奥から湧き上がる。今頃になって実感し始めた。
ー別れたくない。ずっと一緒にいたいー
俺の中で一つの感情が渦巻く。
渦巻くこの感情を振り払うため、そして、最後にアイツと決着を付けるため、ここまで使ってきた木刀を手にアイツの部屋へ向かった。
アイツとの勝負の結果は、七百四十三勝七百四十三敗五百二十四引き分けで終わっていた。今日勝てば、俺の勝ちだ。
ーアイツには、全体に負けないー
そんなことを考えてたら、あっという間にアイツの部屋へ来てしまった。
今日に限って、この取っ手を握るのが怖い。握ってしまったら、扉を開けてしまったら、二度と会えなくなるような気がしてしまった。
アイツや、メイシェンが見たらきっと、
「エルザらしくないじゃん。大丈夫だから握ってごらんよ」
って言われる気がする。
幻の中の友人達が「早く!!」と急かす。
意志を決め、俺は扉を叩いた。
「はい」
「居るか?入るぞ」
扉を開けると、丁度満月が見える窓をバックに、金髪でブルーサファイアの瞳のライバル、カナト・ディルアが木刀を持って立っていた。
男に使うのは変かもしれないが、カナトはどこか神秘的で綺麗だった。ただし、アイツ、ちょっと童顔ぎみなんだよな…。
「やっぱり来ると思った」
カナトは、俺が来ることを予想していたらしい。やっぱり、全部お見通しだな、アイツには。
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