WING
□リデリア編 卒業前夜 エルザ′s side
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やっぱり、いつまでたっても雌雄はつかないらしい。
俺の首もとにも、カナトの首もとにもお互いの木刀がおかれていた。
「また、引き分けかよ」
「今回は僕が勝つと思ったのになぁ…」
ため息をついてしょげるカナト。よっぽど自信あったのか?
使ったとはいえ、俺のカウンターもカナトの幻影もまだまだ甘いところがある。格好つけて繰り出したのが仇になっちまったりして…。
結局、勝負が持ち越しのまま卒業しちまうのか。
不意に体の軸がずれたかと感じるとそのまま後ろに倒れ込んでしまった。
俺の隣でドサッと音がする。
音がした方を見るとカナトも同じように倒れ込んでいた。
「ふふっ、はは、ははははは」
「くすくす、くすっ、あはははは」
お互いの顔を見合わせて、その間抜け顔にお互い笑ってしまう。
静寂な筈の学生寮に二つの笑い声がこだまする。あーあ、明日朝一番に怒られるんだろうな。卒業前にトイレ掃除だけは勘弁してほしいけど…。
やっと落ち着き、学生寮に静寂が戻った頃、真剣な顔になってカナトが口を開いた。
「エルザにだけは、話しておこうと思う」
「え?」
『話しておこうと思う』は、カナトが秘密の話しをする時の口癖だ。このタイミングで持ちかけるということは、今まで誰にも言えなかったことを俺に話してくれるのではないかと思い、驚いた。
俺なんかにいいのか?
そんな不安が過ぎった。
「僕の本当の名前のことなんだけど…」
「あぁ…」
カナト・ディルアは本当の名前ではない!?どういうことか分からず、あいずちを打つことしかできなかった。
「僕の本当の名前は、カナト・フォル・クロディリア。この名前の意味、分かるよね?」
ークロディリア。
知らない訳がない。この世界に住んでいる者なら知っている英雄の名前。
ツバサ・リナリア・クロディリア。
俺は、目を見開いて真剣なカナトの顔を見て、ため息をついて、空を仰いだ。毎度のことながら、コイツにはいっつも驚かされる。
だけどその反面、びっくりするような血筋を引いているやつが他にも、それも近くにいることに安堵していた俺がいた。
「ごめん、過去に色々あって、本当のことを隠してたんだ。リノやメイシェン、それにフィルにはいつか言うつもり。だから、それまで黙っていてくれる?」
「当たり前だろ!」
申し訳なさそうな顔をするカナトに、笑って答えてやる。それを見て、安心したようにそっと微笑む。
俺も本当のことを言おうと思った。
アイツが言ってくれなかったら、きっと俺は、親友に伝えられてなかったと思う。
「俺もお前に言わなくちゃいけないことがあるんだけど…」
「何?」
きっと、どんな俺でもお前は受け入れてくれると思う。
だって、俺は…。
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