ばさらの本棚

□月ひとしずく
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「今夜の月も、きれいーだねー、かすがー」
「うるさい黙れ謙信様の月見の邪魔になるっ」

 はいはいっ、と俺様は方をすくめた。
 かすがは少し高い位置の枝に立ち、腰に手をあてている。
 俺様から見ると、丁度かすがの横顔の後ろに満月が見える。

「いー眺めだねー」

…ついでに、腕を組んでいないから胸もよく見える。

「こっちを見るな、お前は虎を見守りに来たんじゃないのか?」

 あ、腕組みしちゃった。

「まあねー、大将が酔って潰れちゃう前に帰れるように見てないとね」

「お前の主はいいのか?」

「ああ、真田の旦那?旦那にゃ酒は早いし、大人の会話の邪魔させちゃ駄目でしょ」

「…お前は自分の主を何だと思っているんだ」

「旦那は旦那だよ。それに大丈夫、山盛り月見団子作ってきたから」

「肴を作って、団子を作って、お前は本当に忍びか?」

 あのね、かすが、そこ、俺様も気にしてるところだから。そんな不憫そうな目で見ないでよ。

「いーじゃないの、それにほらっ、俺達の分も作ってきたから」

 笑って包みを差し出せば、かすがはこっちを向いて驚いた顔をする。
 え、そんなに意外?


『キキッ!』


 かすがの足元に見たことのある子猿が一匹、俺様…というより俺様の手元をじっと見ている。


じーーーっと見ている。


すごくすごく物欲しげに見ている…。


「あーもう、夢吉ーっ、邪魔しちゃ駄目だろーっ」

 俺達の居る木の根本から、前田の太郎の叫び声が聞こえる。
 て、やい、何で前田慶次が居るんだ?
 せっかくいいところだったのに。

「夢吉、お前も食べるか?」

 ああっ、かすがはかすがで子猿抱いてるし。
 今だけ代わってほしい…

「よいしょっ、とお。悪いね武田の忍君、夢吉が匂いにつられちゃって。で、俺にも一本くれない?」

「ちょっとー、頼むから空気読んで頂戴よ…」

 がっくりする俺の手元から二本団子を取ると、前田慶次はにやっと笑う。

「さっきまでいい月見してただろー♪下からかすがちゃん見上げてさー♪」

 …俺様、頭痛するんですけど。


 俺達の足元…よりは遠くだけど…からは、時折、豪快な笑い声と、優雅な笑い声が聞こえた…。

 
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