Zoro×Sanji - 2

□夢海〜みゅう〜
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Scene.4 青い海


朝の市場を歩いていたら、ゾロを見つけた。思わず「あ」と声が出た。
ホワイトベイの朝は霧に包まれている。朝市の頃なんか特にだ。
それでも、あのゾロの緑色の頭は目立つので霧の中で目に付いた。
サンジはアボットに頼まれた買い物をしていたのだが、ゾロは一体何をしているのだろうか。ブラブラと路地を歩いている。
サンジがぼんやりとゾロを見ていると、彼もサンジに気づいた様子である。目が合った。こちらに近づいてくる。

「よう」
「おう」

昨日出会ったばかりなのに、まるで旧友のような挨拶だ。なんだか不思議だ、とサンジは思った。

「何してんだ?朝市なんかで」
「いや、目が覚めたから。散歩がてら」

言いつつ何故か視線がふらふらと彷徨っている。ははーん、とサンジは何故か気づいた。

「さてはお前、迷子か」
「!?」

サンジの言葉にゾロは驚いたように目を見開いた。図星か、とサンジは得意な気分になる。

「顔に似合わず方向音痴か。宿に帰れなくなったんだな?」

市場と宿ははっきり言って反対方向にある。
うろうろした結果ここまで来てしまったのだろう。こいつが朝市に用があるとは思えない、とサンジは考えた。

「別に帰れなくなったわけじゃ・・・」

と、ゾロはごちゃごちゃと言っているが、迷子は迷子である。

「まぁ、アボットに頼まれた買い物も終わったところだし、宿まで連れて行ってやってもいい。行くぞ」
「おい勝手に決めんな!」

そう言いつつもサンジが歩き出すとゾロは慌てたように後を追ってきた。
市場のほとんどの人間と知り合いであるサンジは挨拶をしながら歩いているが、その人々は皆後ろを歩くゾロを注視していた。見覚えのない人間だからだろう。
ホワイトベイは入り江にあるからか内向的な街で、なかなか外からやってくる人間が珍しいのだ。それだけに警戒心も強い。
しかしゾロはそんな好奇や警戒の目をあからさまに受けても平気そうな顔をしていた。気づいていないのかもしれない。だとしたらかなり図太いというか、鈍感だ。
それとももともとそういうものを気にしない性質なのだろうか。
朝市を抜けると住宅街に入る。喧騒が少し遠ざかった。

「なぁお前、ずっとここに住んでるのか?」

しばらく歩いたところでゾロが言った。

「あ?あァ、うん。生まれも育ちもここだ」
「そう、か・・・」
「お前は?ここに流れてきたってことは、旅でもしてんのか?」
「まぁそんなもんだ。志してるもんがあってな」
「へェ。その刀と関係あんのか?」

目線をゾロの腰元に携えられている刀にやる。
どうやって使うのやら三本もある刀。

「まァな。大剣豪ってやつだ」
「へェ。そりゃ高い志だな」
「お前は何かねェのか?」

そうゾロに振られてサンジは言葉に詰まった。
この街で生まれて、何事もなく平凡にここまで生きてきている。
この先のことなど、考えたこともない。けれど姉を置いてこの街を出て行く、というのも考えられなかった。
姉とサンジはお互いの他に身寄りがない。だから、離れてしまえばひとりぼっちだ。
姉をこの街にひとり残していくのは忍びない。

「おれは・・・この街が好きだからよ」

それは間違いではない。
この街は好きだ。あの酒場も、街の人々も、それに姉もいる。
ずっとそう思っていた。

「それで、お前はここにいて満足なのか?」

ゾロは真っ直ぐにサンジを見て言った。迷いのない目だ。すべて見透かされている気がした。
サンジはその視線に耐え切れず、目を逸らしていた。

「・・・満足だよ」

答えた声は小さかった。けれどゾロは「ふうん」と言っただけで、それ以上は何も言わない。
途切れた会話に息苦しくなってふと視線を他所にやると海が目に入った。いつも通りの、薄水色の白い海。

「なぁ、青い海、お前は見たことあるか?」
「アレは違うのか?」
「薄い色じゃなく、すげェ濃い色の」
「あァ。おれはどっちかと言うとそっちのが見慣れてる。こんな薄い色の海は初めてだ」

ゾロに触れて見えた真っ青な海。深い深い、コバルトブルーの海。ギラギラと照り付ける太陽。見たこともない海だった。それなのに妙に懐かしくて、そこに行きたくなった。
見慣れた白い海を見つめる。違う、と思った。
帰りたいとそう思った。


Nextscene→追憶の波
(10/11/15)


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