捧げ物・宝物
□桃色の夕焼け
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はぁ、と溜息を吐きながら、彼のせいで好きになってしまったパフェを頬張る。
今日、である。
どこからどう見てどう考えても、とにかく当日なのだ。
「はぁぁぁ…」
―――銀時の、誕生日である。
もちろん、誕生日を知らなかったわけでも、忘れていたわけでもない。
何を渡せば彼に喜んでもらえるのか、甘味がいいだろうか、それとも手料理でも作るのがいいのか―――…。
考えに考え抜いている内に、何も出来ないまま当日になっていたのだ。
「誕生日…」
呟いてみたところで、プレゼントが現れるということもなく。
白血球王は、もう何時間いたか分からない茶屋の椅子からようやく立ち上がり、溜め息とともに歩き出した。
何はともあれ、プレゼントを買わなければならない。
そう思って、ケーキ屋に行き、いつもは行けないような茶屋にも行ったのだが、なかなかこれというものが見つからない。
「もういっそ洗剤で…」
どうしようもなくて立ち寄ったデパートで、かつて彼と戦った、思い出の品でもあるドメ○トを手に取る。
そして、脳内で渡すときの状況をシミュレート。
銀時、と声を掛ける。
振り向いた彼は、きっと訳の分からないといった顔をしているはずだから、そこで一言。
『誕生日おめでとう』
そして手渡す、一本の洗剤―――
「…さすがにこれは」
ムードも何もあったものではない。思い出の品といえど、誕生日には似合わないだろう。
だとすれば、一体どうしたらいいのか。
思考はぐるぐると同じところを巡るばかりで、一向に前に進もうとはしない。
考えれば考えるほどにどつぼに嵌ってしまうようで、どうしても答えにたどり着けそうは無いのである。
「はあああぁぁぁ……」
深く深く溜息をついて、白血球王はうなだれた。
どうしたらいいのかも分からない。というか、そもそも銀時に何をあげたら喜んでもらえるのかさえ分からなくなってきてしまった。
ここが家であったならきっと大の字に寝転んでしまっているであろう心境で、白血球王は再び歩き出す。
「……」
ぶらぶらと歩いてみても、先程までと景色が変わる事など無い。
それは分かりつつも未練一杯に辺りをうろついてしまうのは、銀時の粘り強い性格が受け継がれているからだろうか。
辺りに視線をめぐらせて、一人でうんうん唸る。
―――と、その時。
「あ…」
ふと目に入ったのは、たまたま通りがかっただけのアクセサリー店、そのショーケースの中に並ぶ指輪の数々。
その中でも一際白血球王の目を引いたのは、何の飾り気の無いペアリングだった。
紺色の箱の中に入った銀色は、二人で寄り添う自分達のようにも見えてしまって。
「…これ、かな」
値段を見てみても、財布に優しいとは言えずとも買えない値段ではない。
早速店員に声を掛けて、財布からお札を抜き出して渡す。
なけなしのお札と引き換えに手に入れたペアリングは、静かに重さをたたえて白血球王の手に収まった。
なんだかいいものを見つけたという気になって、白血球王はさっきとは打って変わった軽い足取りで歩いていったのだった。