捧げ物・宝物

□REGRET
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本当は、好きだった。
その眸も、声も、髪も、心も、何もかも。

自分にはない何かを持っている彼が羨ましくて、憧れて。
それが恋に変わったのは、一体いつからだったのだろう。

そんな事も分からない位自然に、きっと二人は愛し合っていた。

言葉にしたことも、お互いに触れることもなかったけれど。
そっとそっと臆病に、けれど確かにその心は伝わりつつあった。


―――けれど、嗚呼、どうして気付かなかったのだろう。



世界はいつだって、理不尽にしか作られていないのだ。






REGRET







アンタのことが好きなんでさァ、と彼は言った。
その眸は、酷く儚く揺れていて。

俺もだよと、残酷な嘘を吐いた。






沖田の体は、いつからか病魔に侵されていた。
それに周りの人間たちが気づいたのはほんの一週間ほど前のことで、それは同時に沖田の病がもう治るものではない事を表していた。

今でもはっきりと思い出せる、赤色。
酷く咳き込む、少年の背中。

―――フラッシュバックする、記憶。


いつも笑っていたあの表情が。
『十四郎さん』と囁く優しい声が。
死の間際まで、他人を想ったその心が。
そして―――

『私…十四郎さんの側にいたい』

自分が冷たくあしらった、彼女の精一杯の願いが。


泣きたくなるような想いと共に、目の前の少年に重なって。

「…土方さん」

赤い赤い血と共に吐き出された、今までに聞いたことがない程、不安げに揺れる声。
何も言えない土方の前で、沖田は笑った。

それは不安なんて何もないというような、
彼が強がっているときの笑顔、で。



「俺ァ、死んじまうらしいですぜ」



泣いてしまうかと、思った。
目の奥が熱くなって、けれど涙を流すのはあまりに彼に残酷だから。

何も言えずに、ただ拳を握った。
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