捧げ物・宝物

□REGRET
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沖田に想いを告げられてから、一週間ほど経っただろうか。
世間に沖田が倒れたことは伏せられていて、真選組の隊士以外にその事を知っている者はいなかった。

何も変わらない日常。
保たれる平穏。

そのことに気付いて、土方は小さく舌打ちをする。
何も変わらないことが、悔しかった。

と、その時。


「あれ、土方クンじゃん」


久しぶりー、と間延びした声を響かせて、何も知らない銀時が駆け寄る。
思わず痛んだ心を押し隠して、土方は銀時に向き合った。

「ああ、今日はどうした。万引きか?」
「違ェよ!銀さんはそんな犯罪常習犯じゃありませんー」
「ヘェ」

くれぐれも馬鹿なことすんなよ、と言って立ち去ろうとした土方の動きは、銀時によって止められた。
土方の腕を強く掴んだ銀時は、眸に真剣な色を滲ませて。

「ちょっと、付き合ってくんねェ?」

それだけを、告げた。






銀時に連れて来られたのは、どこかの廃ビルの屋上だった。

「…立ち入り禁止じゃねーのかよ」
「いいのいいの。俺は特別」

チャリ、と音を立てた鍵は、金色に輝いていた。

七階建てのビル。
そこから見える街は広くて、けれど銀時の眸は景色なんて見ていなかった。

自然と予感できる結末に、土方の心臓が大きく音を立てる。


「…次に逢ったら、言おうって決めてた」


―――嗚呼、最悪な当たり。
きしきしと、終わりが近づく音がする。


「俺さ、」


どうかどうか、言わないで。
残酷すぎるほどに求めていた言葉を、どうか今だけは―――



「土方のことが、好きだよ」



そう言った彼は、笑っていた。

脳裏に浮かぶのは、今にも消えてしまいそうなあの少年。
そして、その後ろで笑う、かつて恋した彼女の姿。


―――嗚呼、ねぇ、知ってる?
僕も君を、好きだったんだよ。
君と二人、いつまでも生きていけたなら。
そう何度願ったかも分からない。

けれど、彼を、彼女を裏切る事なんて出来やしないから。


「…ごめん」


心を引き裂かれるような痛みの中、土方はただ一言呟いた。
銀時の表情が、切なげに歪む。

「…そ、っか」

泣きたくなるような声だった。
泣きたくなるほど、愛しい声。


幸せになりたいだけだった。

―――裏切りたくないだけだった。

二人で生きたいと願っていた。

―――それは、きっと彼女も同じだった。


二つの想いを天秤にかけて、けれどどちらかを選ぶことなんて出来やしなくて。

だから、せめていつか幸せになってほしいと願った。

僕の知らないところで結ばれて、子供を育てて、笑っていてくれたらいい。
だから今は、ごめんね。


「……ゴメン、俺先に帰るわ」

もう一度ごめんなと言って、銀時は土方から離れていく。

追いかければ届く距離。
けれど、それは少年を裏切るのと同義で。




後に残ったのは、痛む心と、頬に流れる涙。

―――ああ、



「…好きだよ」



きっと永遠に届かない想いだから。

最初で最後の、告白を。









Fin
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