捧げ物・宝物

□電波男と青春(?)男
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俺の恋人は電波です。


イヤ、宇宙人とか青春ポイントとか、そういうのじゃなく。
だったらどうなんだよっていう話なんだけど、うん、そう、まぁね、


「そういえば俺、冬季限定版のコ○ラのマーチ食いたい」


こんな感じ。
ちなみに現在夏の真っ盛り。ツブヤキヤガッター風に言うなら『夏なう』。
しかも今確実に仕事サボって万事屋来てる。

でも、こんなの日常茶飯事ってレベルじゃない。日常だ。時間が進むのと同じレベルで避けられない。
だって最早あの近藤にさえ諦められた電波具合だからね。
この間めちゃくちゃ同情したみたいな顔で『よろしくな』って言われたときは死にたくなった。まだ死ねないけど。少なくともあと六十年は土方と一緒にいたい。


我が物顔でソファの上でふんぞり返る土方に、向かいあって座る俺は一応ツッコミを入れてみる。

「イヤイヤ無理だから。お願いだから季節考えて?」
「宇宙的進化論でなんとかしろよ」

意味わかんねーよ何だよ宇宙ナントカって。絶対思い付きだろ。
そうは思いつつ、そこにツッコめないのが俺の弱みだって事くらい分かってる。
誰だよ土方をこんな風に育てたの。親と近藤だろ。甘やかしまくったんだよ絶対。だって俺も甘やかすもん。可愛いんだよなんか!

「他に食いたいのないの?他のなら奢るから」
「じゃあフォアグ
「安いやつな」
「フォアグラ」
「変えねェの!?」

なんとなく分かってたけど、土方の根性ハンパない。
普通変えるよね。相手の事を思いやる能力をもう少し持って欲しい。
でもこの間「そんなので副長務まんの?」って訊いたら、「他の奴の前でこんなことするわけねェだろ」って言われてちょっと嬉しかった記憶がある。俺は多分もう駄目だ。

「分かった。俺がもう少し稼いだら二人で行こうな」
「嫌だ。一人がいい」
「最低だなお前!」
「宇宙レベルでな」
「下方修正!?」
「もちろん銀時が」
「しかも俺!」
「当たり前だろ?」

どうしようツッコミまくりだ。勿論違う意味ならそれでいいんだけど、今はそういう時じゃない。
しれっと言ってのけた土方に、俺は肩を落として続ける。

「ちょっとは愛とか無いの」
「無い」
「…ですよねー」

はぁ、と深く溜息を吐く。
分かってたけど。絶対こんな返答が来るって分かってて聞いたけど!
それでも多少は落ち込むのは仕方がないというわけで。


もう一度軽く溜息を吐いて視線を落とせば、くつくつと土方が笑う声が聞こえた。
相変わらず馬鹿にされているなぁとは思いつつ、土方ならそれでもいいような気がするんだから俺は凄いと思う。
でも土方だって、なんだかんだ言って逢いたいって言えば逢ってくれるし、自分からも来てくれる。キス以上の事は滅多にしないけど。

やっぱり好きだなぁ、なんて思ってひっそりと苦笑した。

同時、ぎしりと何かが軋んだ音が響く。
五歩分の足音の後、感じたのはくしゃくしゃと髪がかき混ぜられる感触。


「……へ?」


夢ですか。夢ですかこれ。
うん、きっと夢だ。だって土方がこんなにデレてくれることなんて滅多にない。嘘。初めてだ。

どうしていいのか分からず、俺の動きが停止する。
チクタクと、時計の秒針の音が聞こえた。

「…なぁ銀時?」

そっと上から降ってきた声は、先程までのやり取りが嘘のように思えるほど優しい声だった。

顔を上げて見えたのは、土方の淡い笑顔。
そうして彼は、どこか悪戯っぽく微笑って。



「好きだよ」



そう、告げた。


「…―――」


きっと俺は、分かっていたのだ。
こいつはいつだって理不尽で電波だけど。
それでも、俺が好きになったのはそんな土方なのだという事を。


次第に浮かんでくる笑みをそのままに、俺はそっと口を開く。
これからずっと、傍にいることが出来るようにと願いを込めて―――


「…俺も、好
「まぁ嘘だけどな」


うん、やっぱ無理。









Fin
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