捧げ物・宝物

□the morning glow
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「銀さん、そろそろ家賃回収の季節ですね」


にっこりと、笑顔で新八はそう言った。
その笑顔の裏に『今回も払えるような金はねーぞどうすんだこのマダオが』という意思が嫌になるほど簡単に読み取れて、銀時は乾いた笑いを顔に貼り付けた。
だって、どうしたって金がないのは事実なのだ。依頼がなければ金は入らない。だというのに最近、依頼をしてくる人間もめっきり減ってしまったわけで。

つまり、そう、それなら。

「足掻くのも無駄だとは思わないかねワトソン君」
「黙れマダオ」
「スイマセン」

新八の容赦ない一撃に、銀時はソファの上でぐだりと横になった。
言葉というのは、下手をすれば刀以上に人を傷つけるというのに。そのことをこの少年は知っているのだろうか。…知っているからこそ使っているような気もするけれど。

「…こういう時さー、土方ならもっと…こう…」

小言を言いながら銀時を蹴り飛ばして、「うるせェとっとと払ってこい。働け無職」なんて言うんだろう。アレ、妄想なのにちっとも救われなかった。
けれど後になってきっと、「やれば出来んのにやんねーから悪いんだろ」なんて分かりにくすぎる「お疲れ様」と言ってくれて。
キスをして押し倒せば、口では馬鹿とか言いつつも抵抗はしないのだろう。


言葉を途中で止めてニヤニヤしだしたマダオ―――もとい銀時に、新八は呆れたように溜息を吐いた。
はぁ、ともう一度重く溜息を吐く小姑のような新八を無視して、妄想から帰還した銀時は上機嫌のままテーブルの上にあったジャンプに手を伸ばす。
確か昨日はワンパークまでしか読んでいなかったはずだ。途中で眠ってしまったから。
パラパラとページを捲り、目的の場所まで到達する。
そうしていざ読み始めようとした、その瞬間。



カツカツカツと、勢いよく階段を上ってくる音が聞こえた。



「……」
「……」
「嫌な予感しかしないアル」

神楽の躊躇ない一言に追い討ちをかけるように、はぁ、と新八が顔を覆う。
銀時は諦めにも似た平静を抱きながら、顔を柔らかくもないソファに埋めた。

取り立てに来るのは、お登勢だろうか。最近はキャサリンかたまが多いから、その二人のどちらかかも知れない。
今回はどうやって言い訳をしようかと頭をフル回転させていた銀時だったけれど、結局何も思いつかないままにがらりと扉が―――地獄へと続く扉が、開く音が聞こえた。

逃げておけばよかった、と思うけれどもう後の祭り。
銀時は腹を括って起き上がると、扉の方は見ないまま頭を掻きながら口を開く。

「あー悪ィ今金ねーんだわ。取立てなら明日の依頼が終わってから―――」

言いかけた言葉は、そこで途切れた。

なぜなら、仕方なくちらりと目を向けたその先。
応接間に続く廊下に立っていたのは、




土方、だった。




 
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