捧げ物・宝物

□the morning glow
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「……え、土方どうしたの突然」

驚きこそすれど、嬉しくないわけがない。
湧き上がってくる歓喜に身をゆだねながら、銀時がそう言った瞬間。


「―――…ぎ、銀時!」


土方はそう叫んで銀時の方へと駆け寄り、




銀時は後ろから―――首を、絞められた。




ぐぎゅえっ、とおおよそ人体から聞こえてはいけないであろう音を発して、銀時の首が深刻なダメージを受ける。

あまりに唐突に起こった惨事に一瞬頭がついていかずに硬直していた銀時だったけれど、痛覚が働き始めてからはそうも行かない。
だって、最早絞まっているとかいうレベルではないのだ。折れる。首の骨が粉砕骨折する。

「ひ…ひじ…っ、ちょ、死ぬ、死、ぐぇっ」
「そ、その、だな、俺は、」
「ちょ、マジで離し…っ、ぐはっ」
「べ、別にお前の事嫌いとかじゃない、というか、その、」

きちんと聞けば土方はとんでもなく破壊力の高い言葉を連ねているのだけれど、今土方のとんでもない破壊力の攻撃を受けている銀時にそんな余裕はない。
助けを求める為に目をやった向かいのソファからは、何を察したのかは知らないが二人は消え去っていた。
雇い主が危険に瀕しているときくらい助けろと叫びたかったけれど、流石に誰かが今の状態になっているのを見たら自分でも逃げるだろうと思い直す。そもそも給料もまともに払っていないのだから『雇い』主も何も無いのだけれど。そこは気にしない銀時である。

本気で命の危険を感じている銀時は必死にばしばしと土方の腕を叩くものの、一向に腕が緩まる気配はない。
いよいよ息が出来なくなってきて、首の骨がみしりと嫌な音を立てた。

「…っ、ひじか、マジで死、ぐはっ」
「いや、でもその、だからってその…好き、とか言いたいわけじゃなくて、だな、」
「………死、…マジ、も…」


目の前に浮かぶ、いくつもの記憶たち。


土方に初めて逢った日。

土方と初めてキスをした日。

土方に部屋を追い出される日々。

土方に約束を反故にされる日々。

土方のツンが破れない日々。

今首を絞められている現実。


…ああ、あんまりいい思い出ないなぁ。
でも、そんな報われない日々だったけれど。
きっと俺は―――幸せ、だったよ。


「だ、だからその、あの、」
「……ひ…ひじか……いま、ま…ありが、う…」
「俺は…って、え、ちょ、ぎ、銀時!?」

慌てふためく土方の声を聞きながら、銀時は目を閉じた。
土方の腕が自分から外れても、噎せる事もなければ勢いのいい呼吸が再開されるわけでもない。
それが苦しいわけではなく、一種の快感さえ運んできて銀時は全てを諦めた。


―――よかった。死ぬ前って楽になれるって本当だったんだ。


土方が遠くでなにやら騒いでいるけれど、その声すらだんだんと遠くなっていく。


(さよなら、俺の愛しい人。ていうか愛しい人って略したら愛人じゃね)


そんなくだらない事を考えて、
銀時の意識は今度こそ、深い闇に閉ざされた。
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