捧げ物・宝物

□それは銀色の
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東京に雪が降っている。

否、それだけならば土方の目は窓へと向けられてはいなかっただろう。
今窓の外では、世界が白く染め上げられるほどに、雪が積もっていた。

「…積もるもんだなぁ」

一人きりの教室、自分のものではない机に腰掛けて土方は呟いた。
どうりで朝から寒いとは思っていたのだ。
ただ、天気予報では雨だと言っていたのが悔しいところではあるのだけれど。

「土方お待たせ…って、何見てんの」

その声に振り向けば、そこにいたのは二人分の缶コーヒーを手にした銀時。
雪、と短く返して、土方は再び窓の外へと目を向けた。

幼馴染兼同級生、ついでに『お付き合い』をしている彼は、たびたび突然行動を起こす。
今日だって銀時が、雪見酒ならぬ雪見コーヒーをしよう!なんて意味の分からない事を言い出したおかげで、土方は未だに教室に留められているわけである。

本当に、この男はどうかしている。
妙に大人ぶっているくせに、根っこのところは子供の頃から何も変わっていないのだ。

けれどそれが嫌でない自分に気付いて、土方は内心溜息を吐いた。

どうかしている。
この男も、自分も。

そんな土方の心境に気付くはずもなく、ふぅん、と小さく呟いた銀時が、土方にコーヒーを手渡した。
熱すぎない温度に、冷えていた手がじんわりと温まっていくのが心地いい。
ほうと土方が小さく息を吐くと同時、銀時が土方の隣に腰を下ろした。

「よっこらせっと」
「ちょ、狭ェんだけど」
「いーからいーから」
「良くねェ!」

なんて土方の言葉には耳を貸さず、銀時はその場所を動こうとしない。
一つの机の上に、男が二人。
後から来た銀時が座れているはずもなくて、ちらりとそちらを見れば当たり前のように銀時の体は半分ほど外に出ていた。

「…狭いなら机もう一個持ってくりゃいいだろうが」
「えーやだー。銀さんめんどいのキライー」
「喋り方やめろ腹立つ」

どうあっても銀時は動く気がないらしい。
はぁ、と一つ溜息を吐いて、土方はこれ以上この話題にこだわるのを諦めた。

満足したように笑った銀時が、再び窓の外に目をやった土方に声を掛ける。

「雪ってさー、綺麗だよな」
「…まぁ、な」

白い、というのもあるのだろう。
小さかった頃は、本気で雪が普通に食べられると思っていた。
流石に今は自分の体が心配で、食べたいなんて思わないけれど。

 
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