捧げ物・宝物

□だから好きなのは君だけなんだってば!
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「だぁかぁらぁ、違うんだって!」

銀時は部屋の中心で叫んだ。
ただし残念ながら、叫んでいるのは愛ではなく自己弁護なのだが。

「じゃあアレは何だったんだよ」

万事屋のソファに腰掛けて、土方は冷静に言う。
けれど目線を決して銀時と合わせようとしないあたり、彼も今回は相当怒っているのだろう。
それが分かるだけに、銀時は必死だった。

「アレはほんとに偶然!」
「偶然俺が見た瞬間に路上で抱き合ってたのか。そりゃあ凄ェ」

力一杯の皮肉がこめられた言葉が、銀時の胸にぐさりと刺さる。
けれどアレは本当に偶然―――というより、むしろ災害だったのだ。













時は一時間ほど遡る。


「銀さああああん♪」

いつものように突如として現れたストーカー女…もとい猿飛あやめは、


上空から銀時目掛けて飛び降りてきた。


「ぐはっ!?」

予想外の衝撃に、銀時が仰向けに倒れる。
ゴン、と鈍い音が響いて、周りを歩いていた人間が一気に二人のほうを見ては目を逸らしていく。

恐らく隣のビルの屋上(高さ約二十メートル)からダイブしたのであろう彼女の体は、いくら細いとはいえかなりの威力があった。
後頭部をしたたかに打ち付け苦しむ銀時の上に、猿飛が物凄く幸せそうな表情で圧し掛かっている。
周りの通行人はドン引きしているが、彼女はそんなの一切気にした様子はない。

「いッてェんだけど!! 何コレ大丈夫脳みそ出てない!?」
「もぉ、そんな心配されなくてもさっちゃんは無事なんだゾ☆」
「テメェの心配なんかしてねェよ!! つーか俺の上からどけ。むしろどいてください」
「まったく銀さんったら相変わらずドSなんだから。いい、いいわ、もっと責めればいいじゃない!」
「なにこいつウザっ」
「そんな銀さんには、私からのキ、キ、キスを…」
「いらねェェェェ!!」

なんていつも通りの会話(と言っていいのかは分からないが)をしていた所為で、銀時はすっかり忘れていたのだ。

ざ、と足音が聞こえて、銀時はようやく思い出す。

この道が真選組の巡回ルートで、
この時間が巡回の時間で、
今日巡回するのが土方だという事を。



「…よォ万事屋」



現れた土方は笑顔だった。しかも、そこらの女子が見たらキャアキャア騒ぎそうなほど、爽やかな。
けれど銀時は知っている。
それが、土方の本気で怒っている時だということを。

「…土方?」
「……」

土方は答えない。そして超絶笑顔も壊さない。
銀時の背中に、嫌な汗が伝った。

「…ちょっと話したい事があるんだけど、場所を移しマセンカ?」
「……坂田銀時、婦女暴行で現行犯逮捕」
「いや違うよね!むしろ婦女に暴行されてるよね!」
「執行猶予なし。大丈夫だ介錯は俺がやる」
「いきなり極刑!? ちょ、せめて一時間でいいから話し合いの余地をくださいィィィ!!」


のどかな昼下がりに、そんな男の絶叫が響き渡った。
 
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