長編
□哀
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それは、本当に突然だった。
「……京に?」
「そう。ここから歩いて半月くらいかな」
土方にそれを告げたのは銀時だった。
結局一度も会うことの無かった桂という男はもう京に居るらしく、銀時たちもそれに続くということだった。
天人に屈服した江戸幕府の権威が低下した今でも、江戸には開国派が多い。一度馴染んでしまえば便利な生活を送れるのだ。江戸の人間の性質に拠ればそうなるのは必然だったのかも知れぬ。
対して京では天人への嫌悪感や恐怖心を抱く者が多く、次第に劣勢となっている江戸の攘夷志士達にとっては活動するのに打ってつけの場所だと言えるだろう。
彼らだって攘夷志士である。
いずれ別れが来ることなど分かっていた。
―――分かっていた、つもりだった。
「…いつ」
「明日」
「!」
早い。
早いよ。
早すぎる。
つい一ヶ月前に逢ったばかりなのに。
ねぇ、心の準備だってできないじゃないか!
「っ、せめてもう一日、何とかなんねェのかよ」
我侭だということはわかっていた。
それが無理だろうということも。
それでも、脳裏に甦る。
この一ヶ月は、今までの土方の記憶の中に鮮やか過ぎる思い出を残してしまった。
淡々としていた日々が色付き、初めて家族とも呼べる友人が出来て。
その日々は酷く幸せだったのだ。
「………」
けれど、銀時は辛そうに首を振るから。
「…そ、っか」
そう言うことが、精一杯だった。