長編
□い
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「おーいそこ、駄目だろ授業サボっちゃあ」
立ち入り禁止の屋上、そこでぼんやりと煙草をふかしていた彼に声をかけた。
彼、つまり土方十四郎は、学園一の優等生――だった。
だったというのは、最近めっきり授業をサボるようになってしまったからで。周りの教師も、何があったんだと何度も彼と話そうとしたけれど、うるせーよと一蹴されていた。
それは本当に、突然だったのだ。
その前日までは、仲の良かった近藤や沖田、山崎と一緒に笑いあっていたというのに、突然誰とも関わりたくないとでも言うかのように授業をサボるようになった。学校に来ているのかすら定かではない。
けれどようやく今日は、会えた。
「未成年でしょーが。煙草なんて吸ってて良いわけ?」
「あんたにゃ関係ねェよ」
「あらら冷たいこって」
はぁ、と挑発するように溜息を吐いてみたけれど、土方はそれに乗らない。
ただ淡々と、隠す事も無く煙草の煙を吐き出した。
「…大学がーとか、考えねェの」
「うるせェ」
ふぅわり、煙草の煙が青い空に舞った。
青空に揺れる薄い白、それがやけに眩しい。
そうして薄く、彼は嗤った。
「あんたなんて、大ッ嫌いだ」
くつり、小さな嗤い声が漏れる。
何か嫌われるような事をしただろうかと考えるより早く、土方は煙草をコンクリートの上に投げ捨て歩き出した。
だんだんと遠くなっていく。
このまま行かせてはいけないと、心の中で警鐘が鳴った。
「なァ俺、なんかしたの」
思わず口を突いて出た言葉は、土方の足を止めるには十分だったらしかった。
ぴたりと動きを止めた土方は、ゆっくりゆっくり振り返る。
整った耳が、口が、鼻が、目が、こちらを向く。
そして現れたのは、能面のような無表情。
「―――…なにも、しなかったよ」
まるでそれが罪だとでも言うかのように、土方はそう言った。
そうしてそれきり振り返ることなく、土方は階段を降りて行く。
今度は、警鐘は鳴らなかった。
そうして残ったのは、大きな疑問、唯一つ。
「…んだってんだよ」
小さな呟きは、煙よりも容易く消えていった。