長編
□し
2ページ/2ページ
今日の議題は、授業をサボる生徒についてだった。
となると、中心とされるのは恐らく―――
「さて、土方のことだけどね」
ビンゴォォォォ!! 内心、銀八が叫んだ。
土方十四郎、最近めっきり授業に来なくなった生徒である。
「銀八、あんたなんか知らないのかい」
「…知ってるわきゃねーだろ」
知っていたら、他の教師に頼むなりなんなりして授業に出席させているだろう。
熱血とは決して言わないけれど、流石に自分のクラスの生徒がサボり魔だというのは悲しい。まぁ、沖田は別として。
「成績優秀、真面目で責任感のある生徒だったんじゃないのかい?」
「俺のクラス一の優等生だったよ」
『だった』けれど、今は違う。
何があったかなんて、正直こっちが聞きたいのだ。
お登勢は数秒銀八を見ていたけれど、結局何も言わずに他の教師に向き直った。
「あんたらも、何か心当たりがあったら私か銀八に連絡すんだよ。じゃあ解散」
『はい』
ばらばらと、授業の準備をするために教師たちが去っていく。あと十分もすれば、職員室に居るのは一限の授業が無い教師だけになるだろう。
銀八もそれに混じって、職員室を出た。
教室まで、あと二十メートル。
けれどそこで銀八の足が止まったのは、教室の外の壁に土方が寄りかかっていたから。
「…何してんの」
「……」
ようやく笑みを作って聞いたけれど、土方は答えない。それどころか、銀八に背を向けて去ろうとする。
慌てて駆け出した銀八は、その腕を掴んで引き止めた。
「おい土方」
「…なんですか」
冷たい眸は、憎悪に燃えているようにも見えた。
銀八は腕を掴んだまま、続ける。
「何してたの」
「アンタに関係ないでしょう」
「あるよ。だって担任のセンセーだし」
そう言うと、土方は憎憎しげに眉を顰めた。
そうして、小さく呟く。
「…聞いてたんですよ」
「何を?」
「声」
―――声。
ここで聴こえる声、といったら。
「あいつらのか」
「……」
土方は何も言わずに、教室の方に視線を向けた。
表情は全く変わっていない。けれど、ちらりと眸に宿る寂しげな光が、その心情を表しているように思えた。
「…折角ここまで来たんだしさ。授業受けてきなよ」
銀八なりに、手を差し伸べたつもりだった。
ここで軽く頷くだけで、土方は元の生活に戻れる。もちろんすぐにとは言わないけれど、このクラスの生徒たちは優しい子達だ。しばらくすれば元に戻れるだろう。
けれど土方は、銀八の手を振り払った。
視線の合わさった眸に、先程までの儚い光は無い。
代わりにあるのは、憎憎しげに燃える炎。
「何も、知らないくせに」
土方はそれだけ言うと、銀八が来た方向へと歩き出した。
離れていく、足音。
二度目に腕を取る事は、どうしてもできなかった。
to be continued...