隠文

□いつか忘れても君が覚えている
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銀時がそれを知った、あの日。

分かったときには、手遅れだった。
…否、きっと分かったところでどうしようもなかったのだ。


止まらない、記憶の崩壊。


天人が持ち込んだのだろう、新種の病気だと土方は言った。
治療の方法は、この地球はおろか、宇宙のどこにも存在しないのだ、と。


「…ごめん、な、銀時」

泣きそうに微笑んで、彼は言う。
その表情を見ることすら辛くて、銀時は俯いて拳を握った。

「……なにが」

自分の声は、酷く震えていた。

だって、信じたくない現実が、届かなくなってしまう愛が。
こんなに苦しいなんて、知らなかった。

ずっとこのままでいられると、そう信じていたのだ。
このまま歳をとって、喧嘩をしながら、それでもお互いを愛し合って。
そんな未来だけを、望んでいたのに。


「お前の事も…忘れちまう」


いつだって現実は、絶望を突きつける。

「―――ッ」

ひゅ、と肺がおかしな音を立てた。
息をするのが、酷く苦しい。
何かを言うべきだとは思うのに、言葉は何も浮かばなくて。
今にも土方が消えてしまうような気がして、銀時は腕を伸ばした。
触れ合った指先が、冷たい。

「ぎん、」
「好きだよ」

彼が全てを忘れてしまう前に、どこかに行ってしまう前に。
銀時はただ、呟いた。
想いの全てを込めた言葉、を。


「…土方だけが、好きだよ」


幸せ過ぎた今までが罪だというのなら、いくらだって償おう。
地面に頭をこすり付けて、誰に蔑み笑われようと、罵られようと構わない。

それだけの覚悟で、彼を愛していたはずだったのに。

―――なのに、どうしてかなぁ?


「どうして、土方なんだろうなぁ…?」


涙がほとりと、零れた。
ぽたぽたと、眸から、頬から零れて落ちる。

「…ごめんな」

何も出来なくて。

「…ごめん」

ただ涙を流す事しかできなくて。

「ごめん、」
「銀時」

やけに凛とした声だった。
誰より不安なはずの彼は、それでも銀時の為に、微笑って見せるのだ。

「……ひじかた…?」
「俺も、どうして自分なんだって思ってた」

それはきっと、本音なのだろう。
仕方がないと頭では割り切っても、心はそれに付いていかない。
理不尽すぎる世界を恨むし、嘆く。

それでも、と土方は続けるのだ。

「でも、約束しただろ?」
「―――」

やくそく。

それは、銀時が土方に想いを告げた、あの日。
土方は気持ち悪がるでもなく、拒むでもなく、ただ銀時に告げたのだ。


『どんな障害があっても、諦めんなよ?』


誰に何を言われようと、何があろうと。
ただお互いを愛するというだけの、願いにも似た約束。


土方は不安なんてどこにも無いというように、自信気に笑う。

「だから、信じる事にした」

彼はそう言って、そして、



いつか忘れても君が覚えている



そうして僕らは、世界で一番残酷な。

泣きたくなるほどに優しい、約束をした。



 
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