隠文

□誰にも言えない秘密
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違うよな、と訊かれた。

違うよ、と答えた。

まさかねィ、と言われた。

バカじゃねーの、と返した。

本当ですか、と問われた。

しつこい、と斬り捨てた。




―――嗚呼、みんな何も分かっていない。




本当は誰か知っているんだろうと、幾度口を吐いて出そうになったか分からない。

誰か一人くらい不審に感じて、
誰か一人くらい自分を付け回して、
誰か一人くらい自分が敵だと気付いて、
そうして全員が自分を敵にすればいいのに。

けれど今日も、日常は何も変わらない。







「土方」

しんとした部屋に、声が響く。
土方はただ何も言わず、一枚の用紙を手渡した。
そこに記されているのは、今晩の捕り物の配置図。
人数や作戦までもを細かに記したそれは、本来ならば局長と副長しか手に出来るはずのないものだった。

「…ヘェ、お前らも考えんじゃねェか」
「みんな真剣にやってるからな」
「お前もやってんのかァ?」
「どうだかな」

二人だけの部屋の中、背中合わせで会話する。
別に向かい合ったって構わないのだけれど、突然誰かが来ないとも限らない状況ではこの方が安全なのだ。
相手の顔を見るのは、帰る間際だけ。
それが二人のルールだった。

「じゃあ、時間無いから帰るぞ」
「おー、精々働けや」
「テメェにゃ言われたくねぇな」

そうして振り返ったそこに居るのは、いつもと何も変わらない彼。

―――真選組の敵であるはずの、高杉だった。




 
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