隠文

□誰にも言えない秘密
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いつからこんなことをしていたのかと問われれば、答えることは出来なかった。
ただ一つ言えるのは、歯車が狂ったのは土方と高杉が出会ったあの瞬間。
高杉は土方の、土方は高杉の、お互いに失った物を持っていた。
それが一体なんだったのかは分からない。けれど、パズルのピースが繋がるように、二人はお互いを求めるようになった。

背徳感がなかったわけではない。
近藤や仲間を裏切るようで心苦しかったし、気付かれたらどうなってしまうのかと怯えた事もあった。

恐れたのは、高杉とてそうだろう。
土方は仮にも真選組の人間だ。
いつ寝首をかかれるとも分からない相手に信頼を置くなんて、普通ならば出来るはずもないことなのだから。

けれどそれでも、二人は求めずにはいられなかったのだ。

人目を避けて逢瀬を交しては、時間が許しさえすればお互いの身体を求めた。
乾きひび割れていた心は、その間だけ、生きていると感じることが出来たのだ。

日常が非日常に変わる瞬間。
自分が自分ではなくなるような高揚感。

言葉になんて出来なかったけれど、二人で居るだけで満たされるような気がした。
乾いていた心の何かが、潤っていくような。
そんな感覚に、きっと二人は酔いしれていったのだろう。



―――だから、だろうか。
土方が高杉に手を貸すまで、それほど時間は掛からなかった。
別に、攘夷浪士になりたいと思ったわけではない。

ただ、高杉が捕まらなければそれでいい。

そう思ってしまったのだ。








「―――…副長!」

ようやく我に返ったのは、誰かの声が聞こえると思ってからしばらく後だった。
目の前には、心配そうな表情を浮かべた山崎の顔がある。

「大丈夫ですか?さっきからぼーっとして」
「別に。…ちょっと疲れてるだけだろ」

あっさりとそう返したけれど、この男のことだ。これが嘘だなんてきっと気付いているのだろう。
けれど、もうそんな事はどうだってよかった。

ただ、苦しいのだ。

誰を信用するべきなのかすら分からなくて、自分の周りは敵だらけになっていく。



狂ったのは、いつからだった?



「…ねぇ、副長?」
「あア?」

ぼんやりとした思考の向こう、気だるげに返事を返したその先。
山崎の眸は、酷く真剣な色をしていた。

…嗚呼、知っている。
この男がこういう目をしているときは、大抵何か決心しているときなのだ。

「……」

終わりが近づく、気配がする。




「…副長、なんか隠し事してません?」




口元に笑みが浮かんだのは、これから起こる何かに期待してのことなのか。
自然と上がる口角をそのままに、土方は呟いた。




「さぁな」




ねぇ僕に、終わりを頂戴。







誰にも言えない秘密

(一人で抱えるには、重すぎて)

 
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