銀時×土方

□ア イ シ テ ル
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Side.3Z





一時間目の休み時間まであと三十分。


志村新八のクラスの担任兼国語教師―――坂田銀八は、異常にそわそわとしていた。
ちらちらと時計を見ては、進みの遅い長針に苛ついているのが分かる。
煙草のフィルターを噛み潰し、銀八は投げやりに口を開いた。
「これで今日の内容は全部でーす。分かったかテメェら」
「分かりませーん」
「古文なんざ暗記だ暗記。自分で必死に覚えろ。そうやって人は成長していくんだよ」
「先生それじゃあ授業の意味がありません」
「うっせーなカツラ取るぞ」
「カツラじゃありません地毛です。そろそろ訴えますよ」

銀八は普段からして適当な授業をする教師なのだけれど、今日は特に酷い。
黒板の文字は読みにくいことこの上ないし、教科書と照らし合わせてみれば抜けていたり間違っていたりするのがすぐに分かる。授業を受けている方からすれば最悪だ。



まぁ、これが一週間周期で続けば慣れてしまうのだけれど。



新八が軽く溜め息を吐くと同時、銀八は我慢の限界だとでもいうように煙草を灰皿に押し付けた。
分かり切っていた事ながら、嫌な予感しかしない。

ほんの数秒間だけ教室が静まり返って、


「俺はひじか…色々と忙しいので今日の授業終わり!」


「やったネ!外で遊んでくるアル!」
「リーダー待て俺も行く」
「銀さぁぁん!そんなに私との逢瀬を心待ちにしてたなんて!」

一気に沸き返る室内。
この光景も見慣れたものだ。慣れたくなんてなかったけれど。
もう一度溜め息を吐いた新八の目の前で、銀八は後ろも振り向かずに教室から出て行った。そこに躊躇とか罪の意識とか、そんな物が欠片もないのがいっそ凄いとすら思う。

銀八がいそいそと出て行った扉をしばらく見つめて、新八は深い深い溜め息を吐き出した。
幾ら耳を澄ませようと、聞こえてくるのは勉強に向かない級友達の騒ぎ声だけで。



「…転校しよう」



もう何度目になるかも分からない言葉を、そろそろ本気で呟いた。
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