銀時×土方

□水溜りを泳ぐ雲
1ページ/2ページ


壱 家族編





―――あなたが、いつか満たされますように。


俺を拾ったあの人は、優しく微笑ってそう言った。
ふわふわと跳ねる髪をそっと指に絡めて、気持ちよさそうに目を細める。

誰より大切な人だった。

先生だった。
家族だった。
守ってくれた人だった。
守りたい人だった。
―――けれど、精一杯に伸ばした手は届かない。
まだ無力な存在でしかなかった俺は、先生が離れてゆくのを見ているしかなかったのだ。
小さな箱庭は崩れ去り、その手に残ったのは憎しみと絶望。
それでも狂いきれなかったのはきっと、先生が遺した希望があったから。


―――銀時、今日があなたの祝福の日です。


生まれた事を喜びなさい。
生きている事を喜びなさい。
愛されている事を、喜びなさい。

きっとそれは、世界で一番残酷な希望。
あの人がいなければ、生きている意味など見つけられなかった。
あの人以外に、あのあたたかな愛は得られないと思っていた。
―――思っていた、けれど。

「あ、銀さんお早うございます」
「ハッピーバースデーネ!」
「ちょ、神楽ちゃん!まだ早いって!」
「もうすぐ言うんだからいいネ。それより早く座るアル!」
「準備はもう出来てますから」
「…おう」


生きている意味と愛を知って、俺は今日も此処に居る。

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ