銀時×土方

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変わらない毎日の中で起きた、一つの変化。
それはきっと傍から見れば、どうという事の無い出来事の一つなのかもしれない。
けれど当人―――銀八にとっては、かけがえのない大きな喜びだったのだ。


「あれ、今日はなんかご機嫌だな」

午後九時を回ろうかという職員室、その中で声を掛けてきたのは、同じく残業中の服部だった。
その前髪に隠れている目でどれだけ見えているのだろうかと思いつつ、銀八はいつものようにやる気の無いような声で返す。

「あー…。そうか?」
「なんか幸せオーラ出てんぜ。彼女でも出来たんじゃねぇの?」
「彼女ねェ…」

実は男だけどな、などということも出来ず、銀八は曖昧に笑った。
かつてこの高校に土方が通っていたとき、二人の関係は誰にも教えていないものだった。
銀八は土方が周りから何か言われたら困ると思っていたし、土方も銀八の立場が悪くなると思ったようだったから、それはただ二人だけの秘密だったのだ。
それは土方が大学へ行った今でも、消えることなく続いている。

「まぁ、彼女がいるっつーのはいいよなァ」

しみじみといった風に、服部が口を開く。
あまりに予想外の言葉に、思わず銀八の動きが止まった。

「…え、なにお前彼女いんの」
「何その本気で驚いたみたいな表情。ちょ、やめてくんない。俺にだって彼女ぐらいいるから」

額―――もとい頬に汗を浮かべ、それでも誇らしげに笑う服部をしげしげと眺め、そうして。

「その前髪でねぇ…」

ぽつりと呟いた。
パソコン作業を再開させた銀八の耳に聞こえてきたのは、ぶつりと何かが切れる音。

「てめ…前髪馬鹿にすんなァァ!!どんだけこれに時間かけてることか…!」
「そんなモンに時間かけてんの?だからお前ブス山みてーな女としか付き合えねーんだよ」
「別に好きなんだからいいだろ!つーかなんで俺の彼女の名前知ってんの!? 明らかに元から知ってたよね。ね!?」
「あーもーうっせェなァ、俺はとっとと帰りてぇんだから黙っててくんない。マジ煩いんだけど」
「んだとォ!?」

下らない会話をぐだぐだと続ける間にも、二人の手は止まる事をしない。
これを他の教師が見たならば、他の仕事もこれくらい熱心にやってくれたらと涙を流す事だろう。
とはいえ元々が資料作成であり、他の教師達は残業などせずとも終わらせているのだけれど。それを終わらせないのが二人である。




そうして、会話の無いまま一時間が過ぎた。


「…よっし、完了。じゃあ俺帰るわ」
「おー、お疲れさん」

先に仕事を終わらせたのは銀八だった。
軽く手を挙げて職員室を出る。
もう春が終わりかけているというのに、夜の廊下は未だ寒い。
軽く身震いして、咥えた煙草に火をつけた。
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