銀時×土方
□good luck!
1ページ/1ページ
「坂田、お前補習な」
そんなお達しを受けたのは、俺が愛してやまない先生からだった。
good luck!
「…で、だからこうなる」
「あー、なんか分かった気がする」
「じゃあこれ解いてみろ」
「やっぱ無理分かんない」
見た瞬間に即答したら、今にも斬り殺されそうな視線で睨みつけられた。
ちなみに、このセンセーは俺の恋人です。
好きなところを挙げたら長くなるから自粛するけど、いざ語ったら一日くらいは余裕で喋れると思う。…いや、既に高杉相手に語った気もする。
まぁそんなことは置いておいて、とにかく俺の恋人は可愛い。エロ可愛い。
それと、俺を睨みつけているこの表情には、何となくだけれどやっぱり刀が似合いそうな気がする。和服…よりは、洋服なイメージかなぁ。
着物で戦うっていうイメージがないのは、普段背広を着ているからだろうか。
そんなことをうだうだと考えていたら、突然頭を殴られた。
「いでっ!?」
「人の話はちゃんと聞けバカ」
ったく、と忌々しそうに土方が舌打ちをする。
…そういう表情まで可愛いと思えてしまうあたり、俺はもう駄目なのかもしれない。
俺がまだぼーっとしていると、土方はわざとらしいくらいに大きく溜息を吐いた。
「お前なぁ、このままいくと卒業できねぇぞ」
「まじでか」
「単位足りてねーし、成績悪ィし、素行も良くねェし」
「……」
恋人相手にこの言い草もどうかとは思うのだけれど、もっともすぎて言い返す言葉はない。
けれど、ふと思ったことはあった。
「…別に、留年してもいいかも」
「は?」
椅子に背を預けて、逆さまに世界を見る。
見慣れた時計、机、黒板、窓、景色。
こういう思い出と別れてしまうのは、普段授業をサボりまくる俺でも寂しいわけだし。
それから、もう一つ。
よいしょ、と一声かけて体勢を戻して、土方を見つめた。
薄い水色の眸に俺を見つけて、何となく嬉しくなる。
「だってさ、卒業したら土方センセーと逢うの大変になるじゃん?」
口調は思うより拗ねたようになった。
逢えなくなるなんて思ってはいないけれど、それでも確実に今より逢う回数は少なくなる。
俺にとっては、どうしてもそれが不満だった。
の、だけれど。
「…別に、いーんじゃねーの」
土方の反応は、やけにあっさりとしたものだった。
思わず「え!?」なんて叫ぶものの、土方の表情は変わらない。
…流石にそれはないんじゃなかろうか。
いや、俺のほうが年下だしさ、迷惑になってるんじゃないかなーとか思わないではなかったけれど。
それでもそれが恋人に掛ける言葉なんだろうか、と俺は思うわけですよ。
なんて俺が一人落ち込んでいると、土方は不意に視線を逸らして。
「お前が卒業したら、どうせ一緒に住むんだし」
「……………へ?」
呆然とする俺に差し出されたのは、銀色に光る一つの鍵。
慌てて土方のほうを見れば、その顔はほんのりと赤く色づいていて。
俺は一も二もなく、その鍵を受け取った。
…やばい、嬉しい。
普段がツンだらけの土方だからこそ、こういう時とのギャップが物凄く可愛いと思う。
年上の先生相手に可愛いなんて思う日が来るとは三年前までは思っていなかったけれど、やっぱり土方は別格だ。
俺は声も出せずに、鍵をひたすらじっと見つめ続ける。
しばらくの沈黙のあと、土方は言いづらそうにおずおずと口を開いた。
「その、迷惑とかじゃ…」
「ない!超嬉しい!」
「…なら、いい」
その表情に僅かな安堵を見つけて、俺はようやく思う。
土方がこれを俺に渡すのに、どれほどの勇気が要ったことだろう。
どんな風に言えばいいのかとか、断られたらどうしようとか。
そういう事を悩んでくれたんだろうな、なんていうのが分かるからこそ、俺の嬉しさは尋常じゃなかった。
土方の体温でぬるくなったそれをにやにやと眺める俺に、土方は照れたように口を開く。
「…卒業したら、だかんな」
「分かってるって」
絶対卒業してみせる、と笑った俺に、土方もほんの少し微笑った。
「じゃあ、追試も頑張れよ」
「まじでか!」
Fin
+++
滅多に手を出さない年下×年上(笑)
こんな卒業もありだと思うんだ!