銀時×土方
□駅員さんと俺
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結局、無賃乗車の原因は俺の急ぎすぎによるものだった。
しっかりと当てたつもりが、場所を外していたらしい。
けれど特に事件にされるでも、罰金を支払わされるでもなく、その駅員は単なる『事故』として片付けてくれて。
『次からは気をつけろよ』
呆れたように、けれどどこか優しくそう言った駅員―――土方は、外側だけじゃなくて内側もばっちり俺の好みだった。
勿論遅刻はした。その所為で怒られた。
けれどそのことが土方との出会いになったのだから、もし神様がいるのなら感謝するしかないだろう。
そして、今。
「…なんでお前ここにいんの」
「土方に逢いたいから」
「面会料金は一分一万円です」
「高っ!!」
こんな会話が当たり前になるほど、俺は駅員室に通い詰めていた。
もう他の駅員さんにも顔を覚えられて、ほぼ顔パス状態だ。
まったく、と呟いたきり追い出そうとはしない土方は、俺の事を少しでも認めてくれているのだろうか。
付き合ってよ、なんて言ったら、頭おかしいんじゃねェの、と返された。
「いいじゃん。彼女も奥さんもいないんでしょ?」
「そういう問題じゃねェ」
「彼氏も旦那さんもいないんでしょ?」
「いてたまるか」
書類整理をしながらも、会話はしてくれる。
とりあえず嫌われてはいないのだろうと勝手に考える事にして、会話を続ける。
「じゃあ付き合ってよ」
「なんでそうなるんだよ」
「好きだから」
「馬鹿らしい」
書類だけを見つめる眸は、こっちをみようともしない。
残念ながら『ツンデレだね♪』とか言えるほど心は頑丈じゃないので、とりあえず俺は土方に後ろから抱き着いてみた。
「うおっ!?」
お、新しい反応。
抱きつくっていうチャレンジは初めてだけど、振り払われないから大丈夫だろう。
そう判断して、内心ドキドキしながらもその体勢のまま会話を始める。
「無視っていじめなんだぜー」
「ちゃんと相手してるだろうが」
「無視ってどう書くか知ってる?『視る』が『無い』って書くんだけど」
「…馬鹿だろ」
はぁ、と溜息を吐いて、土方はまた書類に向かってしまった。
…もうちょっと構ってくれてもいいと思うんだけど。
土方の出勤してる日はほぼ毎日、学校のない日でさえここに通い詰めてるわけだし?
ちょっとくらい優しく…っていうか、惚れてくれてもいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えるものの、口には出さない。
あ、これ思いやりだから。言ったら土方が困るだろうなーっていう感じだから。ざっくり斬られるのが怖いわけじゃないからね。…嘘だけど。正直怖い。
暇になった俺は抱きついたまま、その文字の書かれた紙を覗き込んだ。
「うわー…ワケわかんねェ」
「…お前国語の成績悪いだろ」
「そういう問題じゃなくね!? 内容の所為だから!多分!」
「分ァったから耳元で叫ぶな」
土方がもう一度溜息を吐いたのと同時。
―――…リーンゴーン リーンゴーン
鳴り響く、駅のチャイム。
つまり今は六時だから、よい子はとっとと家に帰れや。っていうチャイムらしい。土方が言うにはだから多分嘘だけど。
まぁ、よい子の俺はそろそろ帰らないと夕飯が食べられなくなるわけで。
「そろそろ帰るわー」
「駅のホームの霊に取り憑かれんなよ」
「怖いこと言うなよ!」
「ほらとっとと帰れ」
自分から振ったくせに。
なんとなく理不尽さを感じながらも、俺は促されるままドアへと歩を進めた。
けれどこのまま帰るのはなんだか悔しくて、俺は土方のほうを振り返って叫ぶ。
「いつかオトして見せるかんな!」
それは宣戦布告で、形を変えた告白で。
だから、いつも通り「馬鹿じゃねェの」なんて返ってくるかと思ったのだけれど。
「―――」
その表情は、ほんの少し驚いているようにも見えた。
いつもとは違う反応に驚いていると、土方は一瞬後には呆れたように軽く溜息を吐いた。
けれどその薄い青色の眸に、どこか嬉しそうな色が滲んで、
「…俺がオチるまで通い続けろよ」
そう言った彼は、微笑っていたから。
―――俺の恋が成就するのは、意外と近い時期かもしれない。
そんな事を思った夕方だった。
Fin
***
実はちょっとオチかけてる土方さん。