銀時×土方

□奇跡も魔法も
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「お前がいなきゃ駄目だって、やっと気付いたんだ」





一ヶ月前、よく晴れた朝。
俺達は静かに緩やかに、当然の運命だったかのように別れた。
原因は銀時の浮気。別れを切り出したのは俺。

『アイツがいいんだろう?』

そう尋ねた俺に、銀時は何も言わなかった。それが一番の答えだった。
どうしてこうなったのかなんて分からなかった。始まりさえ思い出せなかったけれど、幸せだったのは確かなのに。
緩やかな崩壊の旋律。

『…じゃあな』

それだけ言って部屋を出た。
簡単な終わりだった。





好きだったんだ、ずっと。
その銀色に輝く髪が、ほんのりと紅の混じった眸が、優しく俺の名前を呼ぶ声が、笑った顔が、君の全部が好きだった。
それは今でも変わらないよ。


「もう、駄目かなぁ…?」


目の前でぽつりと呟かれた言葉は、酷く震えていた。
反射的に伸ばしかけた手は、僅かに残った理性で抑えつける。

触れてしまえば、赦してしまえば、今より楽になれるだろう。一時の感情に流されて、いいよ、いつまでも一緒にいようなんて微笑ってみせれば、きっと君は子犬のように駆け寄ってくる。ごめんねと繰り返しながら抱きしめてきて、二人して幸せに身を委ねながら、どこまでも腐って堕ちて。
そうしたら、君はきっとまた繰り返す。
そうしていつか後悔するんだ。あの時手を離していればって。
君はごめんねごめんねと泣きながら、どうしようもない絶望に溺れて二人は別れを告げるのだろう。
離れられないほどに愛しあいながら、離れなければならない程に苦しめあって。
分かり切った未来の崩壊。

ねぇ、だったら今、君がまだ引き返せる内に。
いつか君が、誰かと笑い合う日の為に。




「…じゃあな」




あの日と同じ言葉と共に、壊れた世界を崩壊させる。
僅かな痛みと哀しみを乗せて、背中を向けて立ち去った。






聞こえた嗚咽の分だけ泣きたくなるよ。
だからどうか、笑って。











《奇跡も魔法も》
(本当はどこにもないなんて、
ずっとずっと知っていた)
 

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