銀時×土方

□嘘吐き道化の輪舞曲
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きぃ、と軋んだ音を立てて、今はもう使われていない備品室の扉を開けた。
部屋の明かりは点いていて、中からは恐らくニュースキャスターだろう男の声が響いている。
少し奥に進めば、目に入るのは古びて今にも壊れそうなソファー。
そこに腰掛けていたのは、いつも通りの彼だった。


「さかた」


小さく声をかける。
坂田は振り向いて、おかえりと呟いた。










俺と坂田が所謂恋人とやらになったのは、半年ほど前のことだった。
特にきっかけがあったわけではない。
ただ同じだから惹かれて、傍にいたいと願っただけ。
それ以上なんて望まない。今があればそれでいいと、二人でそう決めたから。
だから、愛しているなんて言わない。
同じ部屋の中で二人きり、隣に座ってテレビを見て、時折ぽつぽつと話をする。
それが何よりの幸せで、世界の全てだった。





『続いてのニュースです』

いつの間にか、画面に映るのは女子アナに変わっていた。
腰掛けたソファの隣、ふと見た坂田の表情は何の感情も映し出していなくて、少しだけ安堵する。
同じだと確かに思えなければ、いつだって不安で。
いつまでもしがみつく要らない感情だけが、そうして心を踏み荒らす。
―――嗚呼、彼も同じだろうか。

「…なぁ、」

声を出したのは、俺ではなかった。

「なに」

画面の向こうでは、厳しい表情で女子中学生の自殺のニュースを読み上げている。
『原因はいじめ』
『どうしてあの子が』
『いじめをしていたと見られる女子生徒は』
『どうしていじめなどするのか』
演技じみた悲劇を語る彼らが、少しだけ自分に重なった。

「そろそろさ」
「うん」

色のない坂田の眸が俺を映す。
綺麗な赤だ、なんて、どうでもいい事が頭の中を占めてゆく。

「俺達も、死のっか」

そう言って、坂田はほんの少しだけ笑った。










俺達の小さな願いは、まるで子供の約束だった。
いつ忘れてしまうかも分からない想いだと知りながら、永遠だと信じ祈るような。そんな酷く馬鹿げた、純粋な願い。










いつまでも君と一緒にいるよ。
どこまでもついていくから、ねぇ、

どうか置いていかないで。
 










「いいよ」

そう言うと、坂田はそっと俺の手に触れた。
冷たい手が二つ、触れ合う。
融けるように現れた想いは、一体何だったのだろう。


「ありがとう」


そうして坂田は微笑った。
きっとほんの少しだけ、俺も笑った。


 
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