銀時×土方

□僕と君の夢のはなし
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「―――ッ!!」


叫び声は出なかった。ただ焦るように飛び起きる。
吐く息が荒い。体も汗に濡れていて、嗚呼まるで風邪を引いたみたいだとどこか遠くで思った。
背中には誰もいない。辺りはまだ真っ暗だったけれど、死体もなければ血の臭いもしない。隣で眠っているのは土方で、彼もあんな風に嗤ってはいなかった。

はぁ、と大きく息を吐く。
この夢を見るのは随分と久しぶりだった。否、今まで見たどんな夢よりも酷い。これまであの夢に、土方が出てきたことはなかったから。
あの夢に出てきた土方の、色のない眸を思い返して身震いする。

きっと最近が幸せすぎたのだ。今ある現実に溺れて、過去の痛みを見ずにいすぎた。
それは罪なのかもしれない。誰かが自分をそう責めるなら、甘んじて受け入れる覚悟はあった。
けれど。


「…忘れた訳じゃない」


そうじゃない。そんなこと出来るはずがなかった。
だってあの痛みも苦しみも、嘆きや後悔だって、鋭く銀時の中に刻み込まれているのだから。

ふぅと息を吐いて、横で眠る土方の頭をそっと撫でた。さらりとした黒髪が指を抜けてゆく。

「守りたいものが出来ただけなんだ」

神楽や新八を、お登勢達を、町の人達を守るのだと。
そして何より、愛した彼を守り抜くと決めたのだ。
だから、振り返った過去にすがり付いている場合では、なくて。

「…銀時?」

小さな声が聞こえた。
いつの間にか強く握りしめていた拳は、土方の髪を軽く引っ張ってしまっていたらしい。慌てて手を離して、土方がゆっくりと起き上がるのを見つめる。

「ごめん。起こしちゃった?」

そう尋ねれば、土方はぼうっと銀時を見つめた。
そうして、すぅと伸ばされた手が銀時の頬に触れる。
普段の土方ならば絶対にしないだろうその仕草に、銀時の方が少したじろいだ。

「…お前が、」

まだどこか夢の中にいるような声。
ふわりと寂しそうに、土方は笑った。
置いていかれるのだと分かった子供が、必死で気付かない振りをして親を見送るように。

「お前が泣いてる夢、見た」
「え、」
「どっか遠い、俺の知らない場所で。誰もいない所で、お前が泣いてるんだ」

永遠に真っ白い世界の中で。
どんなに声をかけても、目の前に行っても、銀時は気付かなかったと。
声も上げずに、涙も拭わずに泣いているのだと。
土方の名をひたすらに呼びながら、独りで。

「触ろうとしても触れなくて…ああ俺死んだんだって、思って、」

ぽたりと、土方の眸から涙が落ちる。
ぎこちない微笑は、もうそこにはなくて。


「…夢でよかった」


耐えきれなくて、その細い肩に腕を伸ばす。
触れれば僅かに震えた体は、もうそれ以上拒まなかった。
そのまま抱き締めて布団に倒れ込む。黒髪に染み付いた煙草の匂いが、汗と混じって甘く香る。
好きだよと伝えれば、土方は小さく俺もと呟いた。






それから二人で、お互いの夢の話をした。過去の話をした。未来の話をした。
銀時は土方を守れないのが怖いと言った。
土方は銀時が泣くのが嫌だと言った。
子供のように泣いて、笑って、慰めあって、そうして最後に一つだけ、約束をした。

きっと、約束は守られないだろう。
土方は戦線に立たねばならぬ身で、銀時だって過去が現在にどう繋がるか分からない。
けれどそれでも、何物にも代えられないほど深く、愛してしまったから。


抱き合って見た夢は、酷く幸せだった。











最後まで共に在ろう
(失うのが怖いなら、どうか抱きしめて)
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