銀時×土方

□真っ赤な空を見ただろうか
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夕焼けに染まる空を見上げて、銀時は一人溜息を零した。
空が、街が、あまりに優しい赤色で。
ああ戦争なんて嘘のようだと思った。







『ふたりがひとつだったなら
 同じ鞄を背負えただろう』








北の方に行くんだと土方が言ったのは、もう何ヵ月前の話だろう。
ふーんそうなんだ、何日間?
そう尋ねた銀時に、彼はもう逢えないのだと告げた。
泣きそうなあの表情を、ねぇ、今でも昨日のことのように思い出せるよ。








『ふたりがひとつだったなら
 別れの日など来ないだろう』








嫌な音で高鳴る心臓を必死で押さえて、嘘だろと尋ねた。
土方は俯いたまま 、嘘じゃないと答えた。
これから始まる戦争に参加しなくてはならないのだと。江戸を護るのが自分達の役目だからと。

体中から力が抜けて、息をしているのかも分からなくなって、心臓の動かし方も忘れた。
だってそれを聞いた瞬間に、痛いほど分かってしまったのだ。
土方はもう心を決めていることを。この決意がずっと変わらないことを。

嫌だと叫んだ。
愛してる、好きだよ、離れたくない、ずっと一緒にいよう。
思い付く限りの言葉を心と一緒に並べて、必死に彼を引き留めようとした。
土方は優しいから、もしかしたら行かずにいてくれるのではないかと期待していたのだ。
本当は俺も行きたくないんだ、ここで共に生きていこう、なんて。
嗚呼、今思えばなんて子供じみた我儘だったのだろう。








『言葉ばかり必死になって
 やっと幾つか覚えたのに』








すがりついて泣いて抱き締めて、どうかと祈った。
ずっと傍にいて、笑いあって、ときには喧嘩もして。
そんな未来を望んだ彼を、どうか奪わないでと。

けれど、土方は強いから。
優しすぎるほど、強いから。

柔らかく微笑んで、彼はそっと首を横に振った。
今までに見たこともないほど、哀しくて愛しい笑顔で。








『ただ一度の微笑みが
 あんなに上手に喋るとは』








またな、そう言った君は、今どこにいますか。
笑っていますか。
苦しくはないですか。


―――生きて、いますか。


それだけが心配なんだ。
大丈夫でありますようにとは願わない。
笑って帰ってくることを信じてる。

ねぇ、早く戦争なんて終わらないかな。
そうして君が帰ってきたら、まずは、そう、おかえりって抱きしめるよ。だからどうか、ただいまって照れたように笑って欲しい。
それから寂しかったんだって泣いて、逢えなかった時の分までキスをしよう。
もう二度と離れないように。
最後の一瞬まで傍に在れるように。








『ふたりがひとつだったなら
 出会う日など来なかっただろう』







赤色がゆっくりと、黒色に染まっていく。

君の色だ、なんて小さく笑った。




***
『真っ赤な空を見ただろうか』(BUMP OF CHICKEN)歌詞引用

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