高杉×土方

□消滅願望
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ああ、いっそ逃げてしまおうか。

この狭い鳥籠から!




もうやめろ、と男の声がきこえた。







「なァ、近藤さん」

嘘のように静まり返った屯所。
俺の声だけが響いた。

「紹介したい奴がいるんだ」

ねぇ、どうしてアンタは何も言わないの。
いつもなら、『どこの娘さんだ? やるなァトシ〜』なんて言って笑うくせに。
どうしてそんなに、驚いたような表情を。

「高杉晋助」

ひょこり、と顔を出したそいつは、手配書そのままの凶悪犯顔だった。
…いや、少し違うかな。いつもより、ほんの少し厳しい顔。
あぁ、近藤さんの前だから?いいよそんなに緊張しなくたって。この人、とってもいい人だから。

「俺、こいつと一緒に行くって決めたんだ」

口元に、自然と笑みが浮かんだ。

嗚呼、きっとその毎日はどんなに輝いている事だろう!
この濁って歪んだ世界とは違うものが見られると、俺はそう信じているよ。

「なァ、近藤さ、」
「トシ、」

やっと近藤さんが口を開いた。
震える唇が、言葉を紡ぐ。

「…お前は、それで、幸せか?」

そんなの決まってる。

「幸せだよ」

そう言ったら、近藤さんは嬉しそうに微笑んだ。

「…そうか」

ならそれでいいよ、と。
そう言って彼は息絶えた。






ああ、いっそ逃げ出してしまおうか。

君とならばそれでもいいよ。




血に濡れたこの体で、どこまで行けるか試してみよう。








Fin

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