高杉×土方

□愛を込めて言霊を
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時は五月五日、子供の日。
空には鯉幟が泳ぎ回り、地上では子供たちが柏餅を片手に走り回っている。

そんな、よく晴れたある日。

史上最凶のテロリストと恐れられた男は、敵地であるはずの真選組屯所の前に立っていた。
しかも傘を被っているとは言え、いつもの目立つ女物の着物で。

そしてそこから十五メートルほど離れた場所には、高杉の部下―――否、今となっては目付け役である男女の姿があった。

「晋助様、大丈夫っスかね…」

電柱の影で、また子はぽつりと呟く。
その様子は、敬愛する相手を見るというよりも出来の悪い息子のおつかいを見守る母親に似ていた。
勿論高杉がまた子の息子というトンデモ昔話はないし、おつかいに行くわけでもないのだけれど。
はぁ、と心配そうに溜息を吐いたまた子に、万斎は静かに口を開いた。

「まぁ大丈夫でござろう。いくらあの晋助とはいえ、仮にも拙者たちのトップ。大きなヘマをしでかすとは思えん」
「でも恋には一辺倒のあの人だよォ?面倒な事になる気がするんだけどねェ」

万斎の言葉に一瞬安心したまた子だったけれど、続いた似蔵の言葉に、う、と言葉を詰まらせた。

―――何しろ、そう、『あの』高杉なのだ。
かつて「土方と付き合ってるから」とさらっと言ってしまって鬼兵隊を混乱に陥れ、「土方を真選組まで迎えにいく」と言って屯所に乗り込もうとした事さえあったのだ。
そんな高杉なら、何かをやらかしてもおかしくない。
いくら信じたくとも、それをさせてくれないのが高杉なのだ。

実際、万斎は口でああ言いつつ表情が死んでいるし、似蔵なんて諦めを隠そうともしない。
また子も半分諦めつつ、それでも微かな希望に賭けて。


「大丈夫っスよね、晋助様…」


敬愛する男に向けて、そう、呟いた。
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