近藤×土方

□とある夜の日
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「みんな、今日は無礼講だ!何も気にせず飲んでくれ!!」
『おおおおおおっ!!』

威勢のよい掛け声と、地鳴りのような男達の声。
近藤はいつも通りの(と言っては語弊があるかもしれないが)全裸だ。

近藤は、隊士達に慕われている。
彼の愚直さは、時に欠点となりつつも、どこか人を惹きつけるものがあるのだ。
土方は時折、それが酷く羨ましくなる。

既に顔を赤くした隊士達と、げらげらと騒がしい笑い声。
土方はそれをぼんやりと眺めながら、その中心にいる彼を見た。

「……」

はぁ、と誰にも聞こえないように、軽く溜息を吐いた。






宵も過ぎ、潰れた隊士達は部屋の中で折り重なるように眠っている。
先程までは騒がしかったというのに、急にしんと静まり返った部屋はどこか物寂しい。
潰れた隊士達をどうしようかと考え、けれどどうでもいいかと思い直す。どうせこれ位で風邪を引くような繊細な人間は居やしないのだ。

「……」

小さな盃に酒を少しずつ注いで、ちびりちびりと飲んでゆく。
―――近藤は、もう眠っているのだろうか。
もう『あの日』は終わってしまった。
つまりそれは、大切なことを伝えられなかったということで。

「…まぁ、いいか」
「よくねーよ」

ずしり、と体に覆いかぶさってきた重圧に、土方は眉を顰めた。
服は軽く羽織っているようだけれど、酒の臭いが強く残っていて、ああやっぱりこの人も酔ってるんだなぁ、なんて思う。
抱きしめられたようになっているこの体勢では、表情は読み取ることが出来ない。

「なんだよ」
「…まだ、聞いてないんだけど」
「…なんだっけ?」
「ちょ、トシィ!?」

近藤の必死な声に、思わず土方の表情に淡い笑みが浮かぶ。
くつりと喉を鳴らして笑うと、近藤は拗ねたように唇を尖らせたようだった。

「酷ェなぁトシ」
「アンタが俺に構わないのが悪い」

やけにするりと、言葉が零れた。
普段なら恥ずかしくて言えないだろうことは明らかで、近藤は驚いたように土方の顔を覗き込む。
ぽかんとしたような表情が可笑しくて、笑えた。

「…アンタはみんなに好かれすぎ。俺が騒がしいの苦手だって知ってるくせに」
「それは…。でも、トシだって好かれてんじゃねぇか」
「どこがだよ。俺ァ嫌われモンだぜ?」
「とっつきにくいだけだよ。じゃなきゃ話しかけたりしねぇだろ?」
「……」

何だか窘められたような気分になって、土方はその手の中で、空になった盃を弄ぶ。
無意識のうちに土方の視線がそこへ向いたからか、近藤もそちらに目線を移して―――そうしてそのまま、その頭を土方の肩に再びぽすりと埋めた。
土方の肩口からは、くっくっと必死に噛み殺したような笑い声が響いている。
訳が分からなくて、土方が小さく声を掛けた。

「近藤さん…?」
「変わってねぇなぁ、トシ…」

その癖、と近藤が指差すのは、手の中の盃。

「気まずくなると、持ってるモン弄りだす」
「そうか?」
「そうだよ」

小さく響く笑い声が居たたまれなくて、土方はことりと近藤の肩に額を預けた。
近藤の腕がそっと、土方の腰に回る。
ぴたりと密着する体温が温かくて、うすく酔いの回った頭はだんだんと鈍くなってゆく。

「トシ、好きだよ」
「…あんた酔ってんだろ」

皮肉を交えた土方言葉だったのに、じゃなきゃこんなに堂々と言わねぇよ、とどこか楽しそうに近藤は言うのだ。
…いつか惚れたのも、彼のこんなところだったかもしれない。
大胆で、明るくて、馬鹿正直で、優しくて―――…

「…俺も、大分酔ってるな」

酔っているついでに、俺も好きだよ、なんて小さく小さく呟いてみせれば、近藤はまた嬉しそうに土方を抱きしめるのだ。

―――あたたかな、やさしいせかい。

とろとろと落ちてゆく瞼に逆らえず、土方はそっと目を瞑った。
星の無い夜空のような、澄んだ闇の中。
『おめでとう』なんて言ってやらない。
眠気に濁った頭に浮かんだ言葉を、声に乗せて彼へと贈る。

「なぁ、近藤さん」
「ん?」

誕生日、今年は過ぎたからまた来年な、なんて。

少し熱くなった頬で、そう告げた。









Fin

+++
近藤さんはぴば小説。
きっと来年も一緒。


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