近藤×土方

□やさしくなりたい
1ページ/3ページ


冬も盛りの十二月。
巡回のため靴を履いて外に出てみれば、あたり一面は真っ白だった。
空から落ちる雪が世界を白く染め上げて、全てを覆い隠している。
ただ純粋に一色を刻むそれが、今の土方には少し羨ましかった。




ただの大将だったはずの彼に恋心とやらを抱いたのは、一体いつの事だったろう。
いつからか芽生えた想いは日に日に育ち、土方の心を埋め尽くしては締め付ける。
絶対に叶わないなんて知っていた。
彼にはもう結婚を約束している恋人だっていて、大体にして自分達は男同士で。
けれど、切ない恋なんかではないのだ。満たされているとは言えないけれど。
思うだけで幸福になれる、なんて言葉、今までは笑い飛ばしてきたというのに。

「…馬鹿みてェ」

溺れてるよなぁ、なんて苦く笑った。



ゆらゆらと降る雪に少し手を伸ばして、土方は白い息を吐く。
手のひらに落ちた雪が融けていくのを見ながら、ようやくコートもマフラーもないことに気が付いた。まぁ買ってもいないから当然なのだけれど。
寒さはあまり感じない。慣れてしまったのか麻痺しているのか、それは考えない事にした。


「―――トシ!」


ふと聞こえた声に、土方が振り返る。
見えたのは慌てたように駆けてきた近藤と、その手にある大きめの紙袋。
どうせまたあの女へのプレゼントなのだろう。
左胸の奥が、僅かだけずきりと痛んだ。

「…遅ェよ」
「悪い悪い」

全く悪いと思っていないだろう口調で、笑いながら近藤が言う。
軽く溜息を吐いてやったけれど、近藤は全く気にした様子もなく、それどころかしゃがみこんで紙袋を開け始めた。全く意味が分からない。

「何してんのアンタ」
「ん、プレゼント?」
「…あの女のじゃねェのかよ」
「これは違ぇよ」

楽しそうに彼は笑う。
ようやく立ち上がった近藤の手にあったのは、二つの灰色のマフラーだった。
その一つが、土方に手渡される。

「…へ?」
「お前マフラーとかしねぇからさー。お揃いな!」
「や、え、」

あまりに唐突過ぎて、頭がついていかない。
尚も戸惑う土方に近藤は僅か考え込んで、その手からマフラーを取ると、ぐるぐると土方の首に巻きつけ始めた。
目の前に近藤の顔があることとか、冬だというのに微かに汗の匂いがすることとか、そんなどうでもいいことにばかり緊張して訳が分からなくなる。

「よし、完成」
「……」
「…トシ?」

迷惑だったかと訊ねるように、その表情が不安そうに変わる。
慌ててなんでもないと返したけれど、近藤は満足しないようだった。

「風邪引いたんじゃねぇ?」
「大丈夫だって」
「だってトシ、最近ずっと徹夜続きだし」
「…昨日は寝たよ」
「どうせ二、三時間だろ」
「……」

バレている。
どうして知っているんだと訊ねようとしたけれど、昔からの仲だ。土方の行動なんてお見通しなのだろう。
はぁ、と軽く溜息を吐いた。

「…とりあえず行こうぜ」
「途中で倒れんなよ?」
「アンタは心配しすぎ」

はは、と軽く近藤は笑った。

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ