近藤×土方

□やさしくなりたい
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「いやー、今日のお妙さんも綺麗だったなぁ!」
「…近藤さん、そろそろ殺されるぞ」

巡回を終え、近藤に肩を貸しながら屯所に戻る。
今日お妙が投げつけてきたのは、店にあったシャンパンボトル数十本だった。下手をすれば凶器である。

「いや、テーブルに比べれば優しい方だ」
「テーブル!?」

それは投げるものの部類なのだろうか。というか、女が一人で持ち上げていいものなのだろうか。あの店のテーブルは随分重そうだったのだけれど。
大体にして、本当にこの二人は恋人同士なのかと疑問にすら思う土方だ。近藤の思い込みでない事を深く祈った。

「つーか仕事中に行くなよ」
「いや挨拶くらいはだな、」
「どんな挨拶だよ」

せめて殴りあうのなら分かる気もしなくはないが、この場合あくまで一方通行だ。しかも凶器を持った女と無抵抗の男だ。どんな状況なんだろう。

玄関を抜けて、近藤の治療をする為に二人で局長室に向かう。
隊士達も慣れたもので、近藤が重傷と呼んでもいい程の怪我をしていても特に気にすることはない。「またですか」なんて笑う男もいるくらいだ。
局長がコレというのもどうなんだろうなんて考えて、小さく溜息を吐いた。





局長室に入り、箪笥から救急箱を取り出す。
その蓋を開けてみれば、包帯がもうすぐ無くなりそうな事に気付いた。
畳に座っている近藤を振り返る。

「また俺に言わないで抜け出してただろ」
「……ソンナコトナイデスヨ?」
「包帯減ってる」
「や、ほら、小鳥が怪我しててさ!」
「この辺に鳥の巣はねェ」
「……」
「……」
「…すいませんでした」
「よろしい」

しゅんとしてしまった近藤に僅かだけ笑って、土方はその前に座った。
そうして彼の腕を取って、力一杯消毒液を振り掛けてやる。

「ぎゃあああ痛いってトシ!?」
「非番以外で出るときは一声掛けろって言ってんだろ」
「だってぇ!」

ぎゃんぎゃんと喚く近藤の言葉も無視して、土方は消毒を続ける。
今日のは切り傷ばかりだし、包帯は特に必要ないだろう。

「別にあの女の所に行くなとは言わねェけど、仕事中にまで行くなっつーの」
「…はい」
「アンタは一応俺達の大将なんだし、」
「あっお妙さんから電話だ!」
「話を聞けェェェェ!!」

叫ぶ土方に悪ィと苦笑して、近藤は通話ボタンを押す。
本日何度目になるか分からない溜息を吐いて、土方は消毒をするその手を止めた。

「はい!……了解です!今すぐ!」

楽しそうに近藤は笑っている。
傍から見れば理不尽にパシらされているだけなのだけれど、本人はそれが幸せらしいから不思議なものだ。普通の男ならそろそろ幻滅して諦めそうなものだというのに。
電話を切った近藤は、何か与えられたのだろう使命―――命令だと土方は思っているが―――に眸を輝かせていた。

「よし、ちょっと行ってくる!」
「俺のさっきの話の意味を尋ねたい」
「今日で最後にするから!な!」

必死に頼み込んでくる近藤が健気で、ほんの少し笑える。
そうして同時に、苦しかった。
どうせなら早く結婚でも何でもしてほしい。そうしたら、こんな下らない想いだって断ち切ってしまえるかもしれないのに。

「…まぁ、いいけど」
「サンキュートシ!」

しぶしぶ頷いてやれば、近藤は嬉しそうに笑った。
そうして勢いよく立ち上がって、


「「え?」」


その体が、ぐらりと大きく傾いた。

それも、目の前―――土方のいる方向に。


状況がスローモーションに進む事もなく、勢いよく近藤が倒れこんでくる。
耐え切れず、土方は畳に頭を打ち付けた。

「っつぅ…」
「わ、悪いトシ大丈夫か!?」
「あー、大丈夫」

多分、と頭の中で付け足した。
あまりに急で身を庇えもしなかったから、世界はくらくらと揺れている。
目の前にある近藤の表情は酷く心配そうで、すこし面白かった。

「早くあの女のトコ行ってこいって」
「いや、でも…」
「俺は大丈夫だから」

起き上がろうとして、体に力が入らないことに気付いた。
軽い脳震盪か何かだろうか。打った場所が良くなかったのかもしれない。
僅かに顔をしかめた土方に、近藤がいよいよ不安げな顔をする。

「ほら大丈夫じゃねぇ!」
「いいから早く行けって、」
「トシ!」

叱り付けるような声に、土方の体がぴくりと震える。
土方に覆いかぶさるような体勢のまま、近藤はそっと頭を撫でてくる。
その彼にとっては何でもないのだろう動作が、今の土方には何より辛いというのに。

「お前はいつも無理するから」
「そんなの、」

関係ないだろ、とは言えなかった。
いつもはお妙が一番のくせに、こういうときばかり彼は優しくて。


どうか、もう何も言わないでほしい。
隠し通すと決めたんだ。
諦めるって決めたんだよ。
だからどうか、揺るがせないで。


けれど、


「…心配なんだよ」


泣きそうな顔で、彼は言う。
大した事ねぇよと笑おうとしたけれど、表情は一つも動かなくて、声だって出なくて。
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