山崎×土方
□地味なりに色々考える
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こんにちは、山崎退です。
職業は真選組監察方筆頭、恋人は副長である土方さん。ちなみにどこに惚れたのかって言うと一言では語りつくせないのだけれど、まぁ何と言っても(長いので割愛)。
年齢と血液型は企業秘密。
誕生日は二月六日。そして現在二月十三日。
何が言いたいのかというと、まぁ要するに。
「……未だに誰からも祝われないって…」
泣けてくるほど、俺の誕生日は周囲に知られていないらしかった。
だって、普段のイベントならツンツンしながらも色々と構ってくれる土方さんでさえ、今回は何もなかったのだ。
…アレ、何だろう目から水が。
一人の部屋で書類整理をしながら、俺はそっと目尻を押さえた。
プレゼントとは言わないから、せめて『おめでとう』の一言くらいあってもいいんじゃなかろうかと俺は思うわけですよ。
いや、知らないんならどうしようもないんだけどさ。分かってますけども!
それでも、やっぱり。
「へこむよなぁ…」
こんな俺だって、一応真選組の一員として役立ってるつもりだし、地味だといくら言われたとしても存在ごと忘れられることは無い…はずだ。
というか、一週間前まではそう思っていた。
誕生日のあの日、朝起きてからは内心ドキドキしまくりで、いつ土方さんに『おめでとう』と声を掛けてもらえるのかと期待していたのだ。
けれど、朝を過ぎ、昼を過ぎ、夜を過ぎ、日付が変わっても、誰一人としてそんな話題を出さなかった。
「………」
思い出してまたへこんできたので、俺は思考回路を切り替えることにする。
そう、あの日土方さんは、それと取れる言葉を掛けてくれはしなかっただろうか。
そっと思い出してみる。
『おはようございます』
『おう、おはよう』
『…あの、土方さ―――』
『ああ、そうだ。この間密偵したところ、もう一回行って来てくれねェか。どうもあそこは臭う』
『あ、分かりました』
どうしよう、あの日の会話がこれしかない。
全力でポジティブに考えるとしても、これじゃあ無理だ。だって救える要素がどこにも無い。
若干どころでなく落ち込んできた精神は、もういっそこれ以上下がらないんじゃないだろうかという程に落ちている。
「…はぁ」
重く溜息をついた、その時。
「「「山崎、ハッピーバースデー!!」」」
がらりと部屋の扉を開けて入ってきたのは、局長を筆頭に、真選組の隊士達。
奥のほうに土方さんの姿を見つけて、思わず泣きそうになった。
「え、どうして―――」
「だってお前、今日誕生日だろう?」
―――ああ、と思う。
みんな、俺の誕生日を忘れていたわけではなかったのだ。
真実なんて単純明快。
全員が全員、日にちを間違えていた。
…逆に泣きそうになったけれど、やっぱり祝ってもらえるのは嬉しい。
局長にありがとうございますと言って土方さんに目を向ければ、慌てたように逸らされた。
照れてるんだろうなぁ、やっぱり。
思わずくすりと笑えば、局長は少し不思議そうな表情をしたあと口を開いた。
「いやぁ、正直俺達はその…忘れてたんだけどな。トシが、」
「ちょ、馬鹿、近藤さん!言うなって!」
「えー、いいだろー?」
「良くねぇ!!」
慌てる土方さんは叫ぶけれど、局長は続けた。
その表情がどこと無く悪童っぽいのは、きっと気のせいではないのだろう。
「トシが、お前の誕生日祝おうって言い出したんだぞ?」
にこにこと笑う局長の向こう、顔を真っ赤にした土方さんが見えた。
きっと局長達にそう言ったときも照れていたんだろうなぁ、なんて思うと、つい頬が緩んだ。
だから俺は、彼に向かって告げる。
「土方さん」
「…んだよ」
「ありがとうございます」
「……」
照れたように目を逸らした土方さんは、やっぱり世界中の誰より愛しかった。
Fin
(→おまけのその後)