山崎×土方

□どうか、笑って
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笑っている。
何も知らない誰もを騙して、あの男は今日も笑う。


今日が命日になるなんて、きっと彼は知らないだろう。知られていても困るけれど。
今までと何も変わらない笑顔が、今日はやけにいらつく。


知ってしまったからだ、と山崎は内心で呟いた。
土方にすら何も言わず、己の勘に従って動いた結果がこれだ。面白すぎて笑えやしない。


「おはようございます」


背後から近づいて、挨拶をする。

笑顔は作れていただろうか。今までと同じ笑顔を。
何の疑いもなく言葉を返してきた男の胸をめがけて、予備動作もなくナイフを突き立てた。




「――――…」




世界から音が消失する。
周囲の動きが止まる。


がくりと男が膝をついて、山崎は満足そうに薄く笑った。

それはほんの一秒間の出来事だったかもしれないし、一時間をかけての出来事だったかもしれない。
自分の感覚がおかしくなっていることなんて、もうとっくに知っていた。
ただ一人、彼を守れればそれでよかった。


守りたい人はすぐ隣にいる。
男の体から噴き出したものだろう、頬の辺りに血が付いていた。


「…どうして」


土方が、囁くように訊ねた。


予想通りの反応に、山崎は苦笑する。
何も言わなかったし、気付かれないようにさえしていた。だから彼にしてみれば、山崎が突然裏切ったように見えたろう。

けれど、それで構わなかった。


「…アンタを助けたかったんで」


ぼたぼたと、手にした刀から血が落ちる。
鈍く赤いそれが命の色だなんて、信じたくもなかった。


命はもっと、赤く綺麗であるべきだろう?


ぼたぼたと、血が滴る。

かつて『局長』と慕った男に、何も知らない土方は駆け寄る。

知らなくていいのだ。
誰も知っている必要は無い。
自分だけが知って、そして彼を救えれば構わない。

こんなの、自己満足に過ぎないのかもしれない。
けれどそれでも、自分の壊れかけた心は満たされたから。




「アンタは、笑って生きてればいいんです」




だって裏切り者の粛清は、アンタだけの仕事じゃないでしょう?








Fin


***
もし近藤さんが裏切り者だったら。

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