山崎×土方

□君の夢を見る日
2ページ/4ページ


決断するのに、そう時間はかからなかった。
というよりむしろ、俺に選択権なんて与えられていないのだけど。

長い廊下を歩く。
目指すのはその廊下の奥、行きなれた副長室。

―――ああ、声が聞こえる。

多分、局長と沖田さんも部屋にいるのだろう。
それならそれでいい。
誰がどうあろうと、この世界の終末は同じなのだから。


段々と近づく副長室。終わりの時。


閉められた扉の向こう、きっとあの人は何も知らずに微笑っているのだろう。
俺の気持ちなんて気付かずに。
これから何があるかも知らずに。


「―――…本当は、」


呟きかけた言葉を、頭を振って否定する。
言葉にしてしまえば、きっとこれは冒涜だ。
浮かぶ全てを否定して扉を叩く。

「副長、お話中失礼します」
「入れ」

音も立てずに障子をスライドさせれば、そこに居たのは予想通りの三人。
誰にも疑われず疑わせず、土方さんの元へと近づく。


ああ、なんて簡単で馬鹿馬鹿しい世界。
信頼なんてそんな言葉が欲しかったわけじゃないのに。
そんな無条件に人を信頼するからこの人は駄目なんだ。俺なんかに好かれてしまうんだ。

けれど、無条件に人から愛されるくせに彼はあまりに鈍感で。
それがいつだって苦しいのだ。


愛している。
(愛しているのに)
手に入れたい。
(手に入らない)


狂っている、なんてずっと前から分かっていた。
けれど理性ではどうにもならないくらいに、俺はあの人が好きだから。


土方さんの横で、俺はぴたりと立ち止まる。
懐にある重さを確かめて、しゃがみこむ動作に合わせて。

何度も誰かの血を吸った短刀を引き抜いて、






「―――え?」






『どこまでもどこまでも一緒に行こう』


物語の中、交わされた約束は守られなかった。



けれど、俺は。



銀色が赤く染まる。
彼の心臓から紅が溢れる。
世界の速度が変わる。

ゆっくりと倒れる、彼の体。
驚愕に見開かれた彼の眸に映った俺は、笑っていた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ