山崎×土方

□君の夢を見る日
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「…え」
「やまざ、き…?」

どさりと倒れた、もう二度と目を開けない土方さんの向こう。
呆然とした局長と沖田さんの顔が目に入った。
何があったか分からない―――否、分かりたくないといった様子の二人に向けて、俺は不似合いなくらい大袈裟な笑顔を作る。



「こんにちは初めまして。鬼兵隊潜入員の、山崎退です」



二人にも分かるように自己紹介を終わらせれば、沖田さんは反射的にだろう、立ち上がって間合いを取った。
素早く抜かれた刀の向こう、憎憎しげにぎらぎらと光った眸が俺を映す。
局長も一瞬遅れて立ち上がると、刀に手をかけることもなく僅かに後ずさった。

殺意と動揺が、二人の眸の中で揺れている。

しんと静まり返った部屋。
二人がこちらをじっと見つめてくるのも無視して、俺はそっと土方さんの頭を撫でた。
目を閉じたその表情は、普段からは想像も付かないほど幼くて、愛しくて。
次第に冷たくなっていくその頬に手を当てれば、ようやく局長が口を開いた。

「…山崎、どうして」
「どうして?」

苦しそうに悔しそうに吐き出された言葉に、思わず笑いが込み上げる。
人がいいのは近藤さんの美点なんだと土方さんは笑っていたけれど、最後まで俺には合わなかったらしい。


くだらない。
くだらないくだらないくだらない。


そんな事を聞いて一体どうしようというのだろう。
誰にも俺は救えない。
土方さんだって甦らない。
世界が変わるわけでもない。


「…馬鹿馬鹿しい」


だって理由なんていくらでもあった。

抜け出したくても抜け出せない、暗くて狭い世界。
そこに唯一あった光が、初めて知った愛の向かう先が、土方さんだった。
それがどれほどの救いだったか、きっとアンタ達には分からないんだ。


溢れるような感情を押し殺して立ち上がり、俺はもう一度にっこりと笑って口を開く。

「さあ。考えてみたらどうです?」
「っ、テメェッ!!」

ギリ、と沖田さんが強く奥歯を噛み締める。
同時に聞こえてくる、バタバタと遠くから次第に近づく足音。
ここまで経って、ようやく隊士達が異変を察知したようだった。


その足音を聞きながら、俺は笑う。世界を嗤う。


誰も分かりやしないのだ。
俺の心も、これから起こる全ても、この世界の終焉が近づいていることも。

それなら盛大に、壊れゆく世界なんて嘲笑ってやればいい。

そうして全てが終わったその後で、アンタ達は慟哭すればいいんだ。
どうしてこうなってしまったのか。
どうして気付けなかったのか。
どうすればこうならなかったのか。
後悔して後悔して後悔して、死にたくなるような絶望に身を削られてゆけばいい。

だから、


「アンタ達にはきっと、分かりませんよ」


こんなくだらない世界を壊して、二人きり宇宙を旅しようか。
いつかの物語のように置いて行ったりはしないから。


だから、ねぇ。

アンタも、置いて行かないでくださいよ。









「それじゃあサヨナラ」










君の夢を見る日
(本当は、貴方と二人生きてみたかった)

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