BL短編

□目に映るは赤
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「ねぇ昌(アキラ)君」

「……」

「(無視ですかそうですか)」

 昌君は僕を無視して黙(ダンマ)りを決め込むことにしたみたいなので、僕も少しの間、彼から意識を外したいと思います。

 改めまして、初めましてこんにちは。僕の名前は神崎聡(カンザキサトシ)といいます。ちなみに全寮制男子校に通う高校2年生です。いきなりですが、僕は今、寮の自室でのんびりと夕食を食べようとしていたところでした。

 僕の夕食は、寮には普通に学生食堂もありますが、各部屋にはご丁寧に小さな台所なんぞも設置されているので、食費の節約・自分の好きなものを食べられるという一石二鳥を理由に、専(モッパ)ら自炊派だったりします。

 そんな僕には、僕の作る平凡な味の料理を、いつも美味しいと言って食べてくれる同室者がいます。あ、寮は基本2人部屋なんです。

 そして僕の同室者であり、彼氏でもある津倉坂昌(ツグラザカアキラ)君と2人、いつもの自分の席に向かい合って座りさーいただきましょう。……って、しようとしてたんですけどねー。

「……」

 何故かものすごく不機嫌なんです。そりゃあもう、彼が髪の毛を赤に染めて、しかも元の目つきも悪いわけですから、ただでさえ迫力があるのに、不機嫌になられるとオーラが眼力がハンパなく凄いんです。不良は怒らせるもんじゃないってホントですね。あの眼に睨まれちゃあ百獣の王のライオンもしっぽ振りまいて逃げますよ。

「……」

 要するに、とてつもなく怖いです。そんな視線にさらされている僕は、猫を前にした鼠の気持ちがイタいほど分かります。できれば一生分かりたくなかったんだけど。

「あのー。何か僕、気に障ることした?」

 自分ではいつも通りに話しているつもりでも、口から出る声はめっちゃ震えてます。声も裏声に近いかもしれない……。

「……」

 昌君はそれでも口を開こうとしてくれません。ぷいと顔を横に向けて尚、不機嫌な顔は貼り付いたまま。でも僕は昌君の睨みが自分から外れたので、正直心の中ではほっと息をついています。鼠は臆病な生き物なんです。

「……――に」

「ん? 何?」

 僕が無意識に緊張していた肩の力を抜いていると、昌君は顔を横に向けたまま、何かを呟きました。その呟きがあまりにも小さすぎて聞き取れなかったので、もう一度言ってくれと頼んでみました。でも聞き返されて更に不機嫌オーラを増すくらいなら、もっと大きな声で言ってもらいたかったものです。

「……」

「……」

 僕はひたすら待ちます。

「……」

「……」

 僕はひたすら昌君が何かを言うのを待っています。

「……」

「……」

 でも僕もいつまでも理由の分からない怒りをぶつけられていては、いい気はしません。
 しかも今日はうどんなのに、昌君の不機嫌オーラのおかげですっかり冷めて伸びちゃってます。折角昌君の帰ってくる時間に合わせて、熱いうちに食べれるように準備もしたのに、無駄になってしまいました。なんだか無性に器の中身を昌君に引っかけたいです。

「……」

「……」

 この何ともいえない空気に慣れてしまったのか、僕のお腹は今にも緊張感なく鳴ってしまいそうです。お願いだから空気を読んで大人しくしててね、僕の腹の虫。

「……」

「……」

 なんか言えや。

 僕は先ほどの鼠な気分など忘れて、猫を睨んでみます。これぞ窮鼠猫を噛む。です。……別に使ってみたかっただけですよ。

「はぁー」

 ビクッ

 えっとー。

「何でビクつくの?」

 僕小さくため息ついただけなんですけど。

「ビクついてなんか」

 お、やっと反応返してくれました。少し嬉しいなと思ってしまいましたよ。

「何でそんなに不機嫌なわけ?」

「……」

「……」

「……」

 また黙りですかそうですか。

「何も言ってくれないなら、僕にも考えがあるよ?」

 そして僕は彼の後ろに回って、座ったままの昌君にそっと覆い被さるようにして抱きしめました。

「な、……!」

 予想外の行動だったのか、普段の僕なら絶対にしない行動に、昌君は顔を真っ赤にしちゃってます。普段クールな昌君がやると、そのギャップがすっごく可愛い……。

「理由、言ってくれないの?」

 ちょっと悪戯心が沸いてきて、昌君の耳元でわざと話してあげると、耳まで真っ赤にしちゃいました。……マジこの生物可愛いんですけど。

 僕はうどんの恨みも忘れるぐらいにキュンときました。

「言ってくれないなら……」

 僕は昌君の体に回していた手をお腹の方へ下ろしていきます。そして

「くっふっ……!」

 昌君が身をよじりますが、こんな時でも体の細い僕に気を使って力を加減してくれているところ、僕大好きですよ。

 まぁ、昌君が本気だしちゃったら、僕の骨なんか枯れ枝程度のものだから手加減してくれなくちゃ困るけど。

「や、やめっ聡っ」

「なぁにを〜?」

「ぷっアハハハや、やめ、ハハハ弱い、知って、だろ!」

「昌君がくすぐりに弱いって事?」

 知らないはずないでしょ?だって僕は昌君のこと大好きですもん。







目に映るは赤








 だから、君のことはなんでも知りたいのです。




end...
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