BL短編

□保健室での勘違い
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「ちょ、痛いってっやめてよっ」

 全寮制男子校の保健室に、二人の男子生徒の声が響いていた。

「誰がやめるか。つか、お前が自分でやるの嫌だっつったんだろが」

 一人は言わずともがな、サッカー部のエース。岩倉友永(イワクラトモナガ)。
 そしてその岩倉友永に抵抗の声を発しているのは、彼の親友である吉原由岐(ヨシハラユキ)。いずれも、この学園で容姿共に人気者の二人である。

「だって〜」

「だってもくそもねぇ。黙って大人しくしてれば、痛くしないしすぐに終わる」

「(めっちゃ入りにくいんですけど〜)」

 そしてその二人の会話を保健室のドアの前で聞いているのは、男子校の保健医、小野春樹(オノハルキ)。

 彼は所用のために、つい20分ほど、保健室を留守にしていた。

「ほんとに痛くしない?」

「お前が大人しくじっとしてればな」

 その用事が終わり、自分の城である保健室に帰れる。と思って扉に手をかけた時に聞こえてきたのが冒頭のセリフである。

 ここは全寮制で、しかも男子校であるから、こういうことはよく聞く話。なによりこの保健医もこの学園出身なので、ある程度の理解も免疫もあるにはある。

「(でもね、いくら発情しちゃったからって、真っ昼間からはやめてほしい。私以外の誰かだったらどうするの)」

 そう。例えば彼ら二人のファンであったり、彼らに特別な感情を抱いている人たちにバレたりしたら、色々面倒なことになる。しかしそれよりも小野春樹が今一番に気にしていることは、

「(冷蔵庫の中のプリンが私を待っているのに……!)」

 至極私事である。

「ほら、いくぞ」

「ぃいっつ……!」

 聞きようによっては、ひっじょーに危ない18禁な場面。普通の人ならば、回れ右をしてすぐさま記憶からこの出来事を抹消し、何事もなかったかのように笑おうと努力をするだろう。

 しかし悲しいかな。学園の生徒、教師、兎も角自他共に認める変人である保健医は、そんな常識人な行動をとるはずがなかった。

 ガラッ

「何してるんですか?」

「「あ……」」

 なんと保健医は極々普通にドアを開け、そして再び極々普通に保健室のベッドの方にいる二人の生徒に話しかけたのである。

 あっちゃー。

 どこからともなく、こいつやっちゃったよーという声や、

 何故!?

 などといったツッコミの声が聞こえた気がしたが、保健医はそれらの声を総無視し、いつもの柔らかな笑顔を浮かべた。

「岩倉君と吉原君でしたっけ?」

 そして保健医と目が合った二人は、驚きのあまりその場で固まった。

 その二人の生徒お互いの位置はというと、一人はベッドにちょこんと腰掛けた状態で、そしてもう一人はその横で……消毒液を持っていた。

「吉原が体育で転けやがってな」

「岩倉君に消毒してもらってたんです。僕不器用だから」

 そう。最初は突然にドアが開き声をかけられた事に、驚き固まっていた二人だった。しかし彼らは怪我をした親友の傷に消毒液を塗ろう、塗ってもらおうとしていただけなのである。

 ほっとした反面、なんだか物足りないなー。などと思った保健医、小野春樹は、再びどこからか聞こえてき声と一緒に、

「ちっ」

「「何故舌打ち!?」」

 舌打ちをしてから、好物のプリンを食べるために、二人を保健室から追い出した。

「三段プリン〜♪」

 そして保健医は、いつもと変わりなく、非常にアンバランスなプリンを食べ始めるのでしたとさ。


end...
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