BL短編
□はーと。
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昔は一緒によくバカをした。
ドッチボールでは本気で投げ合ったし、体育なんていつも勝負してた。
あの頃の俺たちは毎日を楽しんで、その楽しい日々に終わりがくるって事なんて考えてもいなかった。
中学生になってからは、一度として同じクラスになることはなかった。それに新しい友達も出来たから、そいつ等と遊ぶのもまた楽しかったし、あいつもあいつで新しい友達と遊んでいた。
クラスが違っても、同じ学校にいる。だから会えばよく昔のように話して、バカやって、毎日本当に楽しかった。
そんな俺たちが一度終わりを迎えたのは、高校生の頃。一緒の学校でなくなったというだけで、ぱったりと会わなくなってしまった。
元々家が近かったわけでもないし、お互いの家に行くよりも、ただ遊んでいたかったから、正確な住所も何も知らない。
あいつはどうか知らないが、俺はあいつと会わなくなっても、特に何も感じることもなく、高校生活を楽しんでいた。
今思えば、なんで俺はあいつ無しで、毎日を楽しめていたんだろうな。
だって今ではこんなにも、あいつなしでは生きていけない。そう思うから。
俺たちが再会したのは大学だった。
あいつを入学式で見つけた時は、人生で一番驚いた。
たった三年。それだけの間に、あいつは変わっていた。
何が変わっていたのかって、勿論一言ではいえないし、分からない。
ただ確かなのは、俺は目が合った瞬間に、あいつから顔をそらしてしまったという事。
自分でも驚いた。
そして同時に、あいつに謝りたいと、心の底から思った。けれど、顔を戻したときには、あいつは俺を見てはいなかった。
自業自得。後の祭り。後悔先に立たず。
これが俺たちの二度目の終わりだった。
大学生活はそれなりに過ぎていき、廊下ですれ違ったり、同じ講義をとっていたりしたけれど、俺たちの壁は厚くなっていくばかりだった。
何度も何度も話しかけよう。謝ろう。と思った。けれどいつも俺の手は引っ込んでしまって、あいつはあいつで、俺に手を伸ばそうとはしなかった。
大学生活も三年目になり、とうとう俺は、あいつとゼミが一緒になってしまった。
正直に言えば嬉しい。でもその反面、どうしたらいいのか分からなかった。
でも俺はそのとき思ったんだ。
これは一生に一度のチャンスだと。
あいつに謝れる、絶好の機会だと。
ゼミの教室へは一番に入った。
まだ心の準備はできてはいなかったし、正直不安があったことも確かだった。
今更謝ったって、あいつは許してはくれないんじゃないか。もう昔の俺たちには戻れないんじゃないか。
そう考え込んでしまって、あいつを待っている間は、生きた心地がしなかった。
そしてあいつが教室に入ってきたとき、俺ははじめは気づかなかった。
なんて言って話し始めよう。どんな顔して謝れば……夜通し考えていたことを頭の中で何度もリハーサルして、自分でも睡眠不足で顔色が悪いだとか、不安で手が震えているとかは気づかなかった。
あいつに言われるまでは。
「寒いのか?」
一瞬、俺は悩みすぎて幻聴が聞こえたのかと思った。だって誰もいないはずの教室に、しかも自分以外の、ましてやあいつの声が聞こえたのだから。
俺は混乱しながらも、下に向けていた顔をゆっくりと、声のした方へと向けた。
そこには心配そうな顔をして俺を見つめているあいつの姿が見えた。
「と、もき……」
いつの間にかそこにいたあいつの顔を、俺は驚きのあまりに、ポカーンと見つめていた。
あいつはそんな俺を、心配そうな顔で見てきた。
――ドクン
目が合っていたのはほんの数秒。突然俺は胸が苦しくなり、思わず胸を押さえた。
「っ!どうした!?はる!」
なんだこれなんだこれ!
あいつの声も耳に入らず、俺は混乱していた。
自分の体はひどく緊張していて、鼓動は部屋中に響きわたってんじゃないかってくらいにドキドキしてる。しかも、自分でも分かるように、顔が赤い。この症状の意味を、俺は知っていた。
「マジかよ……」
ともきが変わっていたんじゃない。俺が変わっていたんだ。
俺が入学式の日に、あいつから目を反らしたのは、あの時抱いたこの気持ちを認めたくなかったからなんだ。
だってあいつは俺の親友。それに俺たちは同じ男だ。
俺、ともきに惚れてたのか……。
そう自覚した途端に、現実の世界の音が耳に入ってきた。その音は勿論、ともきの声。
「はる?」
「何でもない」
俺は自分のともきに対する気持ちに罪悪感を抱きながら、そっけなく答えてしまった。ともきは今は俺の真横にいる。それが嬉しすぎて、でもそれを表に出すわけにはいかなかった。
「……」
黙り込んでしまったともきに、再び俺の中に罪悪感が生まれていく。
本当は、ともきに対してこんな態度はとりたくない。でも、ともきのため……いや、自分のために、ともきと距離を置いておきたかった。
自分の気持ちに気づいてしまった今。もし謝って、それをともきが許してくれたとしても、俺は昔のようにともきに接することはできない。
俺は弱い人間だから、つらい思いをするのは嫌なんだ。だってこれは、叶わぬ恋なのだから。分かっているからこそ、そばにいることさえ苦しい。そばにいたいのに、そばにはいたくない。
ごめんともき。
せめて心の中では謝らせて。
「……俺のこと、嫌いか?」
ともきが突然に呟いた。
その声が、今までに聞いたこともないぐらいの弱々しいものだったから、俺は思わずともきの顔を見上げた。
「!」
ともきは目に涙をためて俯いていた。俺は椅子に座り、ともきはその横にたっている状態だったから、必然的に、ともきの表情は分かりすぎるぐらいに俺には丸見えだった。
「俺のこと、嫌い?」
「――ちょっ」
ともきはもう一度呟いて、俺にもたれ掛かってきた。俺は横からともきに抱かれる形になり、身動きがとれなくなる。というか元々教室に二人きりの状態に緊張していて、動くはずはなかったのだが。
胸から飛び出るぐらいに、心臓がうるさい。これじゃあともきにまで聞こえていそうだ。しかも、更に顔は赤くなっている気がする。顔を見られたらおしまいだな。
俺がそんな事を心の中で第三者のように冷静に考えていると、ともきがまた話し出した。
「ちっとも俺の方見てくれなくなったし」
違う。いつも俺はお前を見てたよ。
「さっきだって、目、すぐに反らしたし」
いやそれはまぁ、アレだよ。自分の気持ちに気づいてびっくりしたからだよ。うん。
「俺ははるの事、好きだったんだ」
………………は?
「友達とかの好きじゃない。引かれてもかまわない」
いやいや引く前に頭に血がたまりすぎて死にそうっす。え、マジすか。両想いなんすか? ヤバい……からかってんじゃなかったら、すっげぇ嬉しい。
「はるは、俺のこと、嫌いか?」
ともきが三度目の問いかけを口にした。
「と、もき……」
言え! 言うんだ自分! ここで言わなきゃ一生後悔するぞ!
「――」
――お、俺も――。
end...