BL短編
□寝ぼけた彼にご用心
2ページ/5ページ
「ったく。久しぶりの再会だってのに」
俺は自分の背中で寝てる奴に文句を言いながら、自宅に向けて足を進めていた。
辺りは住宅街が並んでいて、夜中の10時ということもあってか、冷たい風以外には音らしい音もなく静かだった。
しかも季節は秋。Yシャツ1枚では肌寒い季節。
けれど俺が、そんな薄着でも寒いと感じないでいられるのは、簡単な話。
それは俺の背中で、ぐっすりと熟睡している茶髪野郎のおかげだ。
「相変わらずの子供体温」
いくら酒が入っているからといって、これは温かいと言うよりも、むしろ熱い。
健康な状態でこれなんだから、風邪ひいたときはどうなるんだろうか。人の体は体温が43度を越えると、タンパク質が分解して死んでしまうとかいうけれど、こいつなら案外平気で笑ってそうだ。
「どっこいせ」
アパートに着くと、とりあえず熱の固まりをソファーの上へと寝転がせておく。
「あ゙ー。腰いて〜」
我ながらセリフがジジ臭い。
けれど、自分とほぼ同じ体格の人間を背負うとなれば、勿論軽いわけもないから、その全ての負担は腰にくる。それなのに、家まで歩き続けることのできた自分を褒めてやりたい。よくぞ途中で潰されなかったな俺。
「スカー」
幸せそうにスヤスヤと眠るそいつ。
池上直紀(イケガミナオキ)と言う名の茶髪野郎は、俺の高校時代の親友だった。
高校を卒業してしまってからは、俺は大学へ行き、直紀は就職。それぞれ違う道を選んでしまって、会う機会もめっきり減ってしまった。と言うか、メールや電話をたまにするぐらいで、会っていない。
三年が過ぎて、いつの間にか俺は大学三年になり、直紀は立派な社会人となっていた。
たった三年。されど三年。この年月は俺たちにとって……いや、少なくとも俺にとっては、直紀はもう俺のことなんか親友とは思っていないのでは……という不安を持たせるには十分な時間だった。
だから、直紀が突然に二人で飲もうぜ!と誘ってくれたのは、素直に嬉しかった。
「なのに行ってみれば酔いつぶれてんだもんなぁ」
俺は楽しみにしてたのにとか、先に飲んでんなよとか、色々と言葉は浮かんでいたが、
「ま、らしいっちゃらしいな」
と、思わず笑っていた。
――それで俺も寝て終わっていたらよかったのにね、うん。
とりあえず、何でこんな状態になったのか、誰か教えてください。
「な、なお、き……?」
「海斗……」
直紀は眠たそうな目をして、ぼやーと俺の体に跨っています。つまり俺はそいつに組み伏せられています。
「……んー?」
「何が起きたのか分からないって顔してるけど、それ俺だからな!?」
まったく。酒は人より先に飲んでできあがっていた上に、今度はお寝ぼけさんですか?そうですかはいですか。とりあえず
「俺の上からどけ!」
「どーして?」
何を言うかこの口は!
「重いんだよ!離れろ!」
「別にいーじゃん」
「よくねーよ!?」
やばい。完全にこいつ寝ぼけてる。
「うるせぇな〜」
俺が直紀をどかそうと躍起になっていると、直紀はあろう事か、俺に顔を近づけてきた。
「あっはっはっは!そーゆーこともあったなあ」
「笑い事か。あの時はマジでビビったんだからな」
「マジー?惜しいことしたなー」
「何が?」
「お前の怯えた顔とか、チョー見たかった〜」
「Sかよ。別に怯えてたんじゃなくて驚いたっつってんだろ」
あの日から数年後。俺も社会人になり、直紀も相変わらずの社会人。俺たちは今でも飲みに行ったりと、交流は続いていた。
「ひっひ〜♪あの時のことはマジ覚えてないんだってー」
「ひでー奴だなおい」
「でも、これは覚えてるからな?」
直紀はそう言って、あの時のように笑って俺に、キスをしてきた。
まぁ、親友という形からは大分変わってしまった俺たちだけど、
――ば、ばかっいきなり
――じゃあいきなりじゃなかったらいいんだ〜?
――何言ってんだよアホっ!
今が幸せならば、それでいっかな、と思う。
end...