BL短編

□寝ぼけた彼にご用心
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「ったく。久しぶりの再会だってのに」

 俺は自分の背中で寝てる奴に文句を言いながら、自宅に向けて足を進めていた。

 辺りは住宅街が並んでいて、夜中の10時ということもあってか、冷たい風以外には音らしい音もなく静かだった。

 しかも季節は秋。Yシャツ1枚では肌寒い季節。

 けれど俺が、そんな薄着でも寒いと感じないでいられるのは、簡単な話。

 それは俺の背中で、ぐっすりと熟睡している茶髪野郎のおかげだ。

「相変わらずの子供体温」

 いくら酒が入っているからといって、これは温かいと言うよりも、むしろ熱い。

 健康な状態でこれなんだから、風邪ひいたときはどうなるんだろうか。人の体は体温が43度を越えると、タンパク質が分解して死んでしまうとかいうけれど、こいつなら案外平気で笑ってそうだ。




「どっこいせ」

 アパートに着くと、とりあえず熱の固まりをソファーの上へと寝転がせておく。

「あ゙ー。腰いて〜」

 我ながらセリフがジジ臭い。

 けれど、自分とほぼ同じ体格の人間を背負うとなれば、勿論軽いわけもないから、その全ての負担は腰にくる。それなのに、家まで歩き続けることのできた自分を褒めてやりたい。よくぞ途中で潰されなかったな俺。

「スカー」

 幸せそうにスヤスヤと眠るそいつ。

 池上直紀(イケガミナオキ)と言う名の茶髪野郎は、俺の高校時代の親友だった。

 高校を卒業してしまってからは、俺は大学へ行き、直紀は就職。それぞれ違う道を選んでしまって、会う機会もめっきり減ってしまった。と言うか、メールや電話をたまにするぐらいで、会っていない。

 三年が過ぎて、いつの間にか俺は大学三年になり、直紀は立派な社会人となっていた。

 たった三年。されど三年。この年月は俺たちにとって……いや、少なくとも俺にとっては、直紀はもう俺のことなんか親友とは思っていないのでは……という不安を持たせるには十分な時間だった。

 だから、直紀が突然に二人で飲もうぜ!と誘ってくれたのは、素直に嬉しかった。





「なのに行ってみれば酔いつぶれてんだもんなぁ」

 俺は楽しみにしてたのにとか、先に飲んでんなよとか、色々と言葉は浮かんでいたが、

「ま、らしいっちゃらしいな」

 と、思わず笑っていた。




 ――それで俺も寝て終わっていたらよかったのにね、うん。




 とりあえず、何でこんな状態になったのか、誰か教えてください。




「な、なお、き……?」

「海斗……」

 直紀は眠たそうな目をして、ぼやーと俺の体に跨っています。つまり俺はそいつに組み伏せられています。

「……んー?」

「何が起きたのか分からないって顔してるけど、それ俺だからな!?」

 まったく。酒は人より先に飲んでできあがっていた上に、今度はお寝ぼけさんですか?そうですかはいですか。とりあえず

「俺の上からどけ!」

「どーして?」

 何を言うかこの口は!

「重いんだよ!離れろ!」

「別にいーじゃん」

「よくねーよ!?」

 やばい。完全にこいつ寝ぼけてる。

「うるせぇな〜」

 俺が直紀をどかそうと躍起になっていると、直紀はあろう事か、俺に顔を近づけてきた。




「あっはっはっは!そーゆーこともあったなあ」

「笑い事か。あの時はマジでビビったんだからな」

「マジー?惜しいことしたなー」

「何が?」

「お前の怯えた顔とか、チョー見たかった〜」

「Sかよ。別に怯えてたんじゃなくて驚いたっつってんだろ」

 あの日から数年後。俺も社会人になり、直紀も相変わらずの社会人。俺たちは今でも飲みに行ったりと、交流は続いていた。

「ひっひ〜♪あの時のことはマジ覚えてないんだってー」

「ひでー奴だなおい」

「でも、これは覚えてるからな?」

 直紀はそう言って、あの時のように笑って俺に、キスをしてきた。

 まぁ、親友という形からは大分変わってしまった俺たちだけど、



 ――ば、ばかっいきなり

 ――じゃあいきなりじゃなかったらいいんだ〜?

 ――何言ってんだよアホっ!



 今が幸せならば、それでいっかな、と思う。



end...
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