BOOK
□白い部屋
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早樹は大学内のある一室に向かって歩いていた。
リュウと会えるのは一週間に一度、5時間だけあの白い部屋に入った時だけだ。
早樹はそのことを知らなかった。だけれども、感覚でリュウがいるというのは感じられたのだ。
「リュウ」
「早樹、久しぶりだね。
ほら、隣おいでよ。」
リュウが丸椅子を指差すと早樹は喜んで座った。
「リュウ、なにかいてるの。」
「・・・早樹。これは僕のお父さんの手だよ。
大きいだろ。僕のお父さんの手。」
「おおきいね。
・・・手。リュウの手ににているね。」
早樹はリュウの手を指差し、リュウの描いた父の手と似ていると言って笑った。
リュウはまじまじと自分の手を見つめる。
「にてるかなぁ?」
「にているよ。ほら、やさしい手。」
早樹とリュウは指を絡めた。
「あったかいね。」
「暖かいね。」
「リュウ。わたし、どこにもいかない
リュウのそばにいるよ、ずっと。」
「本当?お父さんみたいにいなくならない?」
「いっしょ。ずっといっしょ。」
早樹がやくそく、やくそくと呟く。
リュウも少し嬉しくなって早樹と一緒にやくそくと呟いた。
「ずっと一緒ね。」
「うん、いっしょ。」
幼子の戯言のような約束。
でも二人にはちゃんと意味のある約束━━━━
fin