二次小説

□扇風機
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亜樹子がそわそわと何かを待っている。いつもならもう帰る時間なのだが。
ピンポーン。
クラシカルな音を響かせてチャイムが鳴った。
「来たー!!来たよ。来たよ。」
亜樹子がハイテンションで迎える。
どうやら宅配便のようだ。
「何だ?何か買ったのか?」
ごそごそと箱を開けて中のものを取り出す。
「ジャジャーン。これ!!見て見て。カワイイでしょー。」
それはアンティークなタイプの扇風機だった。
「けっこう探すの大変だったんだから。インテリアにするつもりのなら割とあるんだけど。」
そう言いながら、コンセントを壁に挿し、スイッチを押す。
グイーンと重たそうな音を立てながらファンが回る。
「どう?動くのよ。ちゃんと。
これがなかなかなかったのよね。
んー、ちょっと音はうるさいけど、まあいいか。」
確かにここの事務所に冷房装置はない。
天井にファンが回っているがあくまで換気のためで、涼しくなるわけではない。
「ほんとはクーラー入れたいところなんだけどね。ちょっと懐事情がキビシくて。
それに、この事務所には合わないじゃない。クーラーも今風の扇風機も。」
顔を扇風機にあてて、涼しそうにしている。
「うん、涼しい。」
満足そうな笑顔がこぼれる。
壁際に座っていたフィリップが、興味を示したようだ。
「なんだい、それは。亜樹ちゃん」
「知らないのー??扇風機よ。ホント、フィリップくんて意外なこと知らなかったりするのね。」
「興味深い。」
口元に指を当て、キラキラした目で扇風機を見る。
「さてと。来るもの来たし。じゃ、私帰るね。」
そう言ってさっとかばんを持って事務所を後にした。

フィリップはまじまじと扇風機を眺めている。
まさか。
「ちょっと調べてくるよ。」
あー、検索対象は<扇風機>かよ。長くならなきゃいいがな。
ガレージヘ降りていった。ホワイトボードをいっぱいにするまでは出てこないな。

俺は調査書の整理をしながら、長い夜を過ごすことになるのだろう。
と、思ったらいやに早く戻ってきた。
「扇風機の全てを閲覧した。」
あんまり検索内容はなかったらしい。
「でも、ちょっと確かめたいことが出来たんだ。お風呂先に入るね。」
「ああ、別にかまわないけど。」

俺はコーヒーを淹れ、ゆっくりとその香りを楽しんでいた。
今まではなかった扇風機の音と、かすかにシャワーの音が聞こえていた。

「面倒だな。仕方ないか。これで出るしかないか。」
何かひとり言をつぶやいてフィリップが風呂から出てきた。
フィリップの姿を見るなり、
俺は思いっきりコーヒーを噴いた。
「フィ、フィ、フィリップ。お前、その格好!!」
フィリップは、全裸のまま、肩からバスタオルを掛けて、ブーツを履いて風呂から出てきたのだ。
「扇風機は風呂上りの風が最高に気持ちいいって。検索してたら出てきたんだ。」
くったくのない笑顔を見せて、わくわくしながら扇風機の前に立った。
「あー、ホントだ、気持ちいい。」
本当に気持ちよさそうに扇風機の風を浴びていた。
「フィリップ…せめて下履いてから出てこいって!」
「えー、素肌に当たる風が一番だと思ったんだけどな。」
「それにブーツって。」
「だって、他に履くものなかったんだもん。裸足でココ歩くのイヤだし。」
妙なところが神経質だったりする。
「あ、そうだ、ウィンドスケールから確か新しい夏物が。」
デスクに座っている俺の横の箪笥から、ビニールに包まれた新商品を取り出した。
袋をあけ、タグを切り、そのチェック柄のノースリーブロングパーカーを羽織った。
「これならどう?」
「どうって!!中の服は!!下は!!」
俺は激しくうろたえたに違いない。
パーカーをバスローブのようにまとって、フィリップが俺に見せる。
「これってガーゼ素材だから、素肌に気持ちいいよ。」
そう言って、両手で襟元をつかみ、頬に当てた。
にっこりとフィリップが笑う。風呂上りのせいか頬が紅潮している。
俺はたまらなくなっていた。
椅子から立ち上がり、気が付けばフィリップを抱き締めていた。
「バカかお前は!!俺を挑発してるのか!?」
「????」
フィリップはキョトンとした顔で俺に抱かれていた。
ガーゼは確かに手ざわりがいい。
石鹸の香りが鼻をくすぐる。
まだ濡れている髪が俺の頬に当たる。
「翔太郎?」
その濡れた髪をつかんでフィリップに口付けた。
耳元でささやくようにつぶやく。
「そんなものを見せられて、普通でいられるわけがないだろう?」
俺はガーゼ越しのフィリップの背中に手を這わせた。
直接肌を触るのとはまた違う感触が俺を余計に熱くさせた。
再び深く口付ける。フィリップもようやく察したようだ。

ベッドへ移り、俺は服を脱いだ。フィリップのパーカーはそのままだ。
何か、その方が煽情的な気がした。
フィリップを抱き締め、何度も口付けをした。
パーカーからあらわになった胸に唇を当て、乳首を噛む。
「あ…」フィリップは軽く声を洩らした。
舌はフィリップの身体を這い回り、フィリップ自身も反応していた。

ふと、脱いだベストのポケットにあったダブルドライバーに手を伸ばす。
俺はそれを腹に当て、ベルトを出現させると、フィリップにもダブルドライバーが出現した。
「翔太郎、何を?」
「一度やってみたかった。」
俺はベルトをしたまま、フィリップの胸に唇を当てた。
ベルトをした状態だと、俺たちは意識が繋がる。
今、フィリップが感じた感触が俺の方にも流れこんできた。
「こんな風に感じているんだな。」
ダブルドライバー同士がカチャかチャと音を立てる。
「正面からだと邪魔だな。これは。」
フィリップに猫ののびのような姿勢にさせ、腰を高くあげさせる。
俺は枕元に置いてあったボトルの中身を指に取り、一本、二本と広げていった。
俺の方にもフィリップの意識を感じる。
おののくような、求めるような。
俺は膝をつきフィリップの中へ深くもぐりこんだ。
「ああ、こんな感じなのか。」
不思議な感覚が俺を襲ってきた。俺の快感とフィリップが感じているだろう快感。
それは同じようでいて、旋律の違うメロディーを奏でてハーモニーを作り出すような一体感。
快感のうねりに押し流され、俺はもう無我夢中になっていた。

荒い息をはき、お互いに開放された身体はいつもよりけだるく、そして満足感に満ちていた。
俺はダブルドライバーを外し、正面からフィリップを抱き締めた。
しっとりとした汗がガーゼに吸い込まれていた。
名残を惜しむように、軽く口付けをしていると、
ガコンという、えもいわれぬ音がした。
「ああ?」
眉をひそめて俺は振り返り、音のした扇風機の方を見る。
フィリップも俺越しに同じ方向を見た。
アンティークの扇風機の羽がガードの中に落ちていた。
「ったくよう。扇風機の野郎。不良品じゃねえかよ。」
心地いい時間を邪魔されたような気がして、扇風機に悪態をつく。
それを見てふとフィリップが微笑む。
「アンティークだからね、しょうがないのかも。僕が直してみるよ。翔太郎。」
フィリップはやさしく翔太郎をみつめた。
「そうしてくれ。」
俺はフィリップの額に口付けをして、軽く抱き寄せた。

(20100626)

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